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オペラ・ファン

最終更新日:2023年11月24日 (1999.8.1〜)

 

<目  次>

  1.自己紹介 -- 2.バリトン歌手:大賀典雄 -- 3.幻のバリトン歌手:M・ボートライト -- 4.P・ローレンガー

5.2人の美声ソプラノ : (1)常森 寿子 --(2)名古屋木実 -- 6.中国の名花:サイ・イエングアン(崔 岩光) -- 7.驚異の素人テナー

8.最近の「お気に入り歌手達」 9.オペラ・ツアー I :(1)欧州オペラツアー --(2)チュ-リッヒ歌劇場 --(3)本場のブーイング

10.オペラ・ツアーII :(1)メット・オペラツアー --(2)メトロポリタン歌劇場----(3) リング

11.オペラ・ツアーV :(1)ウィーン --(2)グラーツ、ブレッド湖--(3) ヴェネツィア

12.METライブビューイング--  13.オペラ・サロン/音楽ビアプラザ -- 14.ビデオ・コレクション

15.新国立劇場 :(1)立地・建物・運営) ・・(2)バックステージ・ツアー・・ (3)開場記念及び1998/99シーズン公演

(4)1999/2000シーズン公演・・ (5) 2000/2001シーズン公演 ・・ (6) 2001/2002シーズン公演

(7) 2002/2003シーズン公演 ・・ (8) 2003/2004シーズン公演 ・・ (9) 2004/2005シーズン公演

(10)2005/2006シーズン公演・・ (11)2006/2007シーズン公演 ・・(12) 2007/2008シーズン公演

(13) 2008/2009シーズン公演 ・・(14) 2009/2010シーズン公演 ・・ (15) 2010/2011シーズン公演

(16) 2011/2012シーズン公演・・(17) 2012/2013シーズン公演・・(18) 2013/2014シーズン公演

(19) 2014/2015シーズン公演・・(20) 2015/2016シーズン公演・・(21) 2016/2017シーズン公演

(22) 2017/2018シーズン公演・・(23) 2018/2019シーズン公演・・(24) 2019/2020シーズン公演

(25) 2020/2021シーズン公演 ・・(26) 2021/2022シーズン公演 ・・(27) 2022/2023シーズン公演

・・(28) 2023/2024シーズン公演

16. マリインスキー劇場 -- 17.奏楽堂 -- 18.モーツアルトのオペラ -- 19.ヴェルディのオペラ-- 20.学生オペラ

21.ホールオペラ -- 22.初演オペラ

23.音楽コンクール :(1)日本音楽コンクール (2)奏楽堂日本歌曲コンクール (3)日伊声楽コンコルソ

(4)イタリア声楽コンコルソ (5)日本声楽コンクール(6)東京音楽コンクール (7)日仏声楽コンクール

(8)藤沢オペラコンクール (9)静岡国際オペラコンクール  

24.オペラとエレクトーン -- 25.オペラと映画 -- 26.二つの源氏物語 -- 27.無料オルガンコンサート--

28.祝二期会創立50周年 --- 29.「追っかけ」---30.伝説のピアニスト・原智恵子 ---31.学生オーケストラ

32.特殊な楽器---33.モーツアルト生誕250周年と「熱狂の日《 

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  1.自己紹介

小中学校での音楽の成績も悪く、今でもカラオケ苦手人間である私が、クラシック音楽 に親しむようになったのは、45年も前の大学受験を控えた高2の頃であった。ラジオから聞こえてきたハイフェッツが弾くモーツアルトのヴァイオリン・コンチェルト第5番 (トルコ風)の妙なる演奏に感動し、すっかりクラシック音楽ファンになってしまった。自らチェロを弾いた 寺田寅彦の随筆にも影響され、大学に入ったら自分でもヴァイオリンを弾こうと決心した。幸い、志望校に現役で無事入学できたので、入学祝いにヴァイオリンを父に買ってもらい、 独学で1年程やってみたが、残念ながらこれは、全く物にはならなかった。
 大学生活の後半に入って、オペラへの関心も高まり、数はそれほど多くないが、京都や大阪で実演 にも接っするようになった。社会人になってからも「日本モーツアルト協会」や「都民劇場」の会員になり、各種のクラシック音楽を聴いたが、やはり総合芸術であるオペラに 最も強く惹かれ、今日に至っている。この「オペラファン」の欄では、思いつくままに、オペラを中心にクラシック音楽の楽しみや思い出についてを書き綴ってみた。(98/10)

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2. バリトン歌手:大賀典雄

 ソニーの大賀典雄会長が、元バリトン歌手であったことは、 かなり良く知られているが、ごく限られた人しか生の歌声を聞いたことは無いのではなかろうか。(財界人になってからは、宴席などで人に請われると、「プロは、金を貰わなければ 人前で歌わない」といって断ると言う噂を聞いた。)幸い、私は、年の功で現役時代のバリトン歌手大賀典雄の舞台に接することができた。40年も前のことで記憶が定かではないが、 多分1958年の二期会公演、場所は京都の「弥栄会館」だったと思う。出し物は、「フィガロの結婚」で、フィガロ:大橋国一、アルマヴィーヴァ伯爵:大賀典雄というキャスト であった。大賀典雄の伯爵は、容姿は貫禄十分でまさに適役、声もフィッシャーディスカウのような柔らかく品のいい声質で、やはり役にぴったりであったが、残念ながら声量が十分 でなく、絶頂期の大橋国一の迫力に押されて落ち込み気味であった。その後、新聞紙上での大賀氏自身の回顧によると、自分自身の限界を悟って引退を決意し、テープレコーダーなど についてのアドバイザーとして接触のあった現在のソニー社に入社したとのこと。同社では、実力発揮で、会長にまで栄進し、財界でも経団連に副会長を務めるまでになり、まさに転身 大成功といえようか。
 しかし、音楽界に残り、リーダーとして政治的手腕を発揮してもらったならば、国立オペラハウスも初台でなく日比谷公園あたりの一等地に持ってこれたの ではなかろうかと思うと、残念な気もする。(98/10)

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3.幻のバリトン歌手:マックヘンリー・ボートライト

 米国の黒人バリトン歌手マックヘンリー・ボートライトのコンサートに出かけたのは、 やはり40年も前のことであるが、今も心に強く残る美声の持ち主であった。確かコンサート会場は、大阪のサンケイホールであった。歌った曲名は、 ほとんど記憶にないが、まさにビロードのようななめらかな、しかも良く響く美声が耳に残っている。 もっとも、音楽に限らず物事に熱中し始めた頃の出来事は、特に強く心に残るものなので、若干過大評価をしているかもしれないが、同時期に聞いたボリショイ・オペラの吊バリトン (リシチアン)が、特に印象に残っていないことを考えると、やはり「本物」であったのか。残念ながら、その後ボートライトの活躍についての情報が全くなかった(少なくとも私は 知らなかった)だけに、彼は、私にとっては、まさに「幻のバリトン歌手」となった。(98/10)

追記:最近、たまたまボートライトのスペルが分ったので,[Google]で検索したところ、下記のようにすでに故人となっていることが判明した。(2002/07)
  

「McHenry Boatwright(29 Feb 1928 ー 8 Nov 1994) : アフリカ系米国人バス-
バリトン、メトロポリタン・オペラにも出演、”ポーギーとベス”をレコーディング”

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4.ピラール・ローレンガー

 オペラファンには、誰にも贔屓の歌手がいるものであり、プラシド・ドミンゴ のように日本国内にも大きなファンクラブを有する人もいる。私の場合の贔屓の歌手は、惜しくも60才そこそこの若さで亡くなってしまったスペインの吊花ピラール・ローレンガーであった。
25年程前、初めて米国出張した際、ニューヨークには、たった45時間の滞在であったにもかかわらず、元上司が現地の知人に頼んで置いてくれたお陰で 、幸運にも
メトロポリタン・オペラハウスで名指揮者カール・ベーム指揮の「フィガロの結婚」を見ることができた。 此の公演で伯爵夫人を演じたのが、ピラール・ローレンガーであった。フィガロ役のチェーザレ・シエピ以下他の出演者もメトの一流メンバーであったが、気品にあふれ、 音叉の音のように透明なローレンガーの美声が、他の出演者を圧し、観客の反応も抜群であった。すっかり、この世紀の美声にとらわれ、ファンになってしまった。帰国後、 早速彼女の「オペラ・アリア集」のLPを買求め、愛聴すると共にテープにダビングして、車中でもまさにすり切れる程繰返し聞いた。現在もダビングしたこのテープや輸入盤のCD (DECCA 443-931-2)等を聴いている。
ピラール・ローレンガーには、我国にも多くのファンがいるものと思われるが、その中の庄司 渉氏が故人を偲んで立派な ホームページを開設しておられる。(98/10,98/11改)

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5.2人の美声ソプラノ

(1)常森寿子

 活躍の場が関西中心であるためか、 肉声を聞く機会が少ないのが残念であるが、常森寿子の軽やかな高音の伸びは、全くすばらしい。1978年のNHK「ニュイヤー・オペラコンサート」で歌った 「ドン・パスクワーレ」からのアリア「騎士はあのまなざしを」の輝かしい超高音も耳に残っている。実演では、若干の声量不足を感じるが、CDで聞く限り、 コロラトゥーラ・ソプラノの頂点にいるグルベローヴァのような世界の超一流歌手と比較しても勝るとも劣らない。 たまたま、グルベローヴァのCD”コロラトゥーラの芸術 (ORFEO 36CD-10001)”と常森の”うぐいす、ばらそして春(ADAM ACD35-0006)”は、9〜10曲中6曲(J.シュトラウスの「春の声」、アラビエフの「うぐいす」、 ブロッホの「主題と変奏曲」その他)が重なっているので、比較しやすいが高音の伸び、軽快さ等の点で常森が上回っているように感じられる。少なくとも、 私の場合、常森のCDに軍配を上げたい。
栗林義信との共演の”奥様になった女中”のセルピーナは、まさに適役であり、名演である。TV放映の録画は、 私の大事なビデオコレクションの一つとなっている。 彼女には、関東のファンのために、もう少し東京での公演回数の増加を期待したい。(98/10)
<追記>:2年振りに常森のリサイタルを聴いた(1999.11.26、於;浜離宮朝日ホール)。年齢的な衰えは若干あるにしても、 抜群の歌唱力は相変わらずで、モーツァルト、シューベルト、メノッティ等の歌曲中心のプログラムを楽しませてもらった。なお、 彼女のCDには上記の他「日本の歌(Vivtor VICC 5016)」,「日本の名歌(fontec FOCD9058)」等があるが、1〜2年前に「常森寿子の芸術 I:ベッリーニ (夢遊病の女*抜粋)/ ADAM ACD0031」、「同 II:林 光(絵姿女房)/ ADAM ACD0032」というオペラCDが発売されていることを 当日初めて知り、早速会場で買い求めた。20年ほど前の録音をリマスタリングしたものはあるが、声は彼女の絶頂期のものである ため素晴らしい。(99/12)

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(2)名古屋木実

  十数年前、脇役の「魔笛」の3人の童子の第一ソプラノ等を歌っていた頃から注目していたが、その容姿同様声も可憐ながら甘く、 柔らかく良く通り、中高音の美しさは余人の追随を許さない。目下、私のお気に入りソプラノNo.1である。近年は、二期会の中核として、 多くの主役をこなしているが、「セビリアの理髪師」のロジーナ、「メリー・ウイドウ」のヴァランシェンヌ、「フィガロの結婚」のスザンナ、 「ヘンゼルとグレーテル」のグレーテルなどはいずれも適役で見事であった。その他、間宮芳生の「昔噺人買太郎兵衛」、 第九のソリストやクリスマス・コンサートなど大抵の公演には出かけているが、単身赴任中だったため数年前の「魔笛」 のパミーナを見落したのは、今でも残念に思っている。10年ほど前のNHKのTV番組「日本の詩」や「名曲アルバム」 で歌った童謡等も素晴らしかった。
 彼女は、実力に比してCDが少ない(”ヘンゼルとグレーテル:PLATZ P50G-529/530”のみ) のは、まことに不思議でもあり、また、残念でもある。”何故、鮫島有美子ばかり---"と言うのが実感である。どこかのレコード会社が、 彼女の「オペラアリア集」や「日本歌曲集」のCDあるいは、抜群の容姿も楽しめるDVDを出してくれることを願いたい。(98/12)

追記 I (2001/3): 既に廃盤になっているようであるが,大阪センチュリー響の「第九」のソロを歌ったCDのあったことを最近知り、残念に思って いたところ、最近(2001/2)彼女と黒田晋也との楽しい「浅草オペラ珠玉集(カメラータ 28CM-631)」が発売されたことをGさんに 教えてもらい、早速購入した。
追記 II(2003/6):近年、オペラやコンサートへの出演が少なく、残念に思っていたところ、最近(2003.4)彼女の甘く透明な美声をいかした 素晴らしい
「日本の愛唱歌(カメラータ CMCD-28016)」が発売された。 「早春賦」、「荒城の月」、「初恋」、「浜辺の歌」などの日本歌曲の名曲とともに、「ローレライ」、「庭の千草」、「埴生の宿」、など日本語の歌詞で親しまれた 名曲が合計20曲入っており、この種のCDの決定版になりそうだ。
追記V(2023/12):追記(2023.12.25):ここ数年コンサート等への出演情報が全くなかったので、気になりネット上で検索した結果、 既に4年前(2019年7月)に67歳という若さで病没されたことを知った。ショック!残念! 合掌!

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6. 中国の名花:崔 岩光(サイ・イエングアン)

最近のオリンピック等世界的な競技大会での中国選手の活躍が目立つ ようになったが、同様に近い将来オペラ界にも続々と中国出身の歌手が進出するものと思われる。(なんと言っても日本の10倍の人口 を考えると、素材としては、何倍かの可能性がある。)
 ここ数年、日本でも優れた中国人歌手の活躍が見られるが、ソプラノの サイ・イエングアン(崔 岩光)(歌:「海はふるさと」)もその一人である。すでにCDも日本で3枚 ( 「愛する小鳥よ/KICC 120」、「中国の歌/KICC 170」、「オペラアリア集/KICC 242」)出ており、高音から低音まで良く響く豊かな美声をもち、容姿にも気品があり、 プリマドンナの要件を十分に備えている。 国内公演の「魔笛」の夜の女王も良かったが、「椿姫」のヴィオレッタや「フィガロ」の伯爵夫人、「コシファントゥッテ」の フィオルディリージなどにも最適の人ではなかろうか。1996年の名古屋国際音楽祭のオープニング・ガラ・コンサートでの「椿姫」、「ラクメ」等からのアリアは、絶品で、 同じステージにあがったイタリア等で活躍中の有名ソプラノの影が薄くなるほどであった。彼女の今後の活躍に期待したい。1998年11月「東京會舘」で行われた 「サロン・コンサート」に出席し、間近で世界各国の歌曲やオペラ・アリアを聴く機会があり、大感動であったが、コンサート司会者の話しによると、彼女の身長及び 「足の長さ」が故人となったオードリー・ヘプバーンと同じとのことであった。舞台映えするのも当然であろう。また、司会者との会話やサインを貰った際の我々との小会話 からも人柄の良さが伝わり、彼女がますます好きになった。(1998/11)

追記(2001/11): 2000年から2001年にかけての彼女のオペラ出演は、「魔笛」の2公演(2000年10月の国立劇場公演 及び2001年1月の米国サンディエゴ公演)と2001年3月、習志野文化ホールの「椿姫(ハイライト版)」があったが、 2002年にはチリでの「魔笛」,中国での「ちゃんちき」の他、国内でも「椿姫」や「トーランドット」も計画中とのことなので 楽しみである。

追記T(2004/6):先月末に彼女の国内では4枚目のソロアルバム「赤とんぼ(KICC 459)」がキング・レコードから 発売された。 彼女がアンコールで良く歌う「赤とんぼ」をはじめ全18曲が、我々になじみの深い日本語の唱歌であり、 彼女の美声と豊かな情感が生かされたすばらしいCDである。なお、花の街、初恋、浜千鳥、叱られて、 からたちの花等 の純粋な日本歌曲はピアノ伴奏(小森瑞香)で、庭の千草、家路等日本語の歌詞で馴染んでいる 外国の曲はエレクトーン伴奏(神田将)となっているのがユニークである。

追記U(2007/3):2006年12月には、国内で5枚目のCDとして、「歌に生き恋に生き(KICC 488)」がやはりキング・レコードから 発売された。プッチーニ(「ボエーム」、「トスカ」、「蝶々夫人」等)、ヴェルディ(「椿姫」、「ヴェルディ )等のオペラアリアの名曲 が集められたファン待望のCDである。

追記W(2008/5):2008年4月下旬に6枚目のCD:「ベスト・オブ・サイ・イエングアン(KICC 692)」 がキング・レコードから発売された。十八番の「魔笛」、「椿姫」等過去のCDから選ばれたオペラ・アリア4曲と共に、「千の風になって」、「慕情」、「夜来香」など 新録音の6曲を含む18曲が収められた素晴らしいCDである。東京文化会館大ホールでの記念コンサートの会場で購入し、繰り返し愛聴している。

追記X(2012/7):先日の毎日新聞にも大きく紹介されたが、日本でのCDデビュー18年目を迎え、全17曲入りのベスト版 「愛の真実」が発売された。この CDの特長は、彼女の十八番「愛する小鳥よ」に小椋佳が日本語詞をつけたものとともに彼のオリジナル曲「愛の真実」が収録されていることである。

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7.驚異の素人テナー

  (1)音楽の基礎教育をほとんど受けずに成人した男女が、その天性の美声を見出されて、突然声楽家になり、大成した例は、昔から国内外でもいくつかある。  我が国のバスの第一人者であり、世界で活躍する岡村喬生は、早大(政経)入学後、雄弁部か何か音楽と無関係な説明会に出席した時、その声の良さ、 大きさを買われグリークラブに無理矢理(?)引き込まれたのが、音楽家としてのスタートであったと、本人が述懐している。勿論、彼の場合は、 イタリアの音楽院で正規の音楽教育も受けているので、単にスタートが遅かったということかもしれない。 ともかく、世の中には、 大歌手になる素質を持った人が隠れているものである。港区溜池のビルの地下のドイツ風ビアホール「ベルマンズ・ポルカ」は、ピアニスト清水和音の父上を アコーディオニストに抱える楽しい音楽酒場であった。20年ほど前のことであるが、客に開放された「生バンド・タイム」に登場し、 朗々とイタリア民謡を歌った中年のテナーの驚異的な美声と声量は、いまだに耳を離れない。アマチュアであることは明らかであったが、 間近で聞いたマリオ・デル・モナコを彷彿とさせる実力に驚かされた。何年か後、「音楽の友」誌上に、趣味のオペラに入れ上げ、 ついにはイタリアのオペラハウスを貸し切り自ら主役を歌う企画を進め、上演一ヶ月前に惜しくも急逝した医師F氏に関する記事がでた。 関係者に確認したわけではないが、年格好などから、あの驚異のテナーはF氏に違いないと私自身は今でも確信している。(98/10)

(2)先日、「日伊声楽コンコルソ」優勝の他海外でも多くのコンクール優勝、 入賞歴をもつ佐藤康子を聴くのが主目的で、「佐藤康子・米澤傑 イタリアを歌う」というコンサート(2004.1.11、紀尾井ホール)に出かけたが、初めて聴いた共演のテノール歌手 米澤傑の実力に驚嘆した。まさに驚異のテノールであった。米澤氏は、「日伊声楽コンコルソ」入選をはじめ、多くのコンクールでの優勝・入選歴があり、 内外のオーケストラとの共演も多いので、「素人」ととして扱うのは失礼かもしれないが、やはり「本業」が音楽とは無縁の大学教授(鹿児島大学医学部) なのであえてこの欄で取り上げさせてもらった。米澤氏の輝かしい強靭な声は、市原多朗や福井敬に匹敵するものであり、優れたヴォイスコントロールは、 ドミンゴやサッバティーニを想起させた。当日は、ヴェルディやプッチーニのオペラ・アリアやカンツォーネ等が歌われ、聴衆を感動の渦に巻き込み、 賞賛のどよめきが起こった。是非オペラの舞台に立ってわれわれオペラファンを楽しませて欲しいが、本業との兼ね合いでそれが無理であれば、 せめて東京でのコンサートを定期的に開催してもらえればありがたい。(2004.1.14)

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8.最近の「お気に入り」の日本人歌手達

この「オペラ・ファン」サイトを開設して10年近くになるが、年金生活に入ったここ5〜6 年間は、オペラ・声楽を中心として月に10回前後は実演に接している。このため、かなりの 数の歌手を聴くことができ、「お気に入り」歌手も多くできたが、やはり声そのものに魅力 のある歌手が中心となっている。 かなり昔の話ではあるが、その芸術性の高さで一世を風靡した英国のバレリーナである故 マーゴ・フォンティーンがTVのインタービューのなかで、「バレリーナとしての大成の要件 の70%は、容姿である」と強調していたことを思い出したが、声楽家としての大成の要件は、 やはり「声」に尽きるものと筆者は信じている。従って個人的な「お気に入り」歌手は当然、 際立った美声の持主で、歌もうまい人達である。
まず、ソプラノでは、いつもその美声と歌唱力を満喫できる澤畑恵美や高橋薫子、別項に記した 3人のソプラノ(常森寿子、名古屋木実、崔岩光)のCDとともに2枚(AVCL-25005、AVCL-25115) のCDを「iPod」に入れてを愛聴している森麻季、コミカルな演技でも楽しませてくれる赤星啓子 など多くの「お気に入り」歌手がいるが、最近、最も注目しているのは、第3回藤沢オペラ・ コンクールの優勝者で艶のある豊かな美声を持つ林正子である。これまでに聴いたオペラは、 「フィレンツェの悲劇(2005/7)」 「皇帝ティトの慈悲(2006/4)」、「コジ・ファン・トゥッテ(2006/11)」だけであるが いずれも大変素晴らしかった。今後の活躍を大いに期待している。
メゾソプラノでは、 大御所の栗本尊子、伊原直子以来多くの優れた歌手が輩出しているが、若手では、山下牧子と 林美智子に最も期待している。山下をはじめて聴いたのは、<AHREF="opera.htm#ONKON"> 「日本音楽コンクール」に初めて「入選」した時であるが、彼女はその後「日本音楽コンクール」 連続3位(オペラ/歌曲)入賞、「東京音楽コンクール」では優勝を飾っている。その美声と歌唱力 に魅せられ、その後は「追っかけ」状態になっている。オペラでは、主役級を歌った 「ウインザーの陽気な女房たち(2002/10)」、「カルメン(2002/11)」、 「セルセ(2006/1)」、「ジュリアス・シーザー(2005/10)」、「コジ・ファン・ トゥッテ(2006/11)」等はもとより、脇役出演のオペラも大抵みている。また、旧奏楽堂での リサイタル(2003/1)、「冬の旅(2006/1)」などで見せた歌曲や宗教曲(「メサイア (2006/12)」等)も大変素晴らしかった。今後、両部門でのいっそうの活躍を期待したい。 林美智子は、新国立劇場オペラ研修所の一期生であるが、実演に接したのは同所 の発表会だったと思うが、当時の期待通り成長し、今や売れっ子になっている。
テノールは、五十嵐喜芳全盛の昔に比べて近年大変層が厚くなった。ベテランの市原多朗 や福井敬も健在であるが、若手では、なんと言っても天与の豊かな美声を持つ村上敏明が一番の 「お気に入り」であり、やはり「追っかけ」状態にある。最近では、「蝶々夫人(2006/2)」, 「仮面舞踏会(2006/9)」、「「葵上(2006/12)」、「ボエーム(2006/12, 2007/1)」 を観たが、いずれも素晴らしかった。今後も内外での大活躍を期待したい。
バリトンも、国際的に活躍する堀内康雄をはじめ、二期会の大島幾雄、青戸知等大変優れた 歌手が多い。若手では、やはり「日本音楽コンクール」入選時に初めて聴いた多才な宮本益光や 新国立劇場オペラ研修所5期生で容姿も抜群の与那城敬の今後の活躍に期待している。 バスでは、昨年、モノオペラ「人情歌物語〜松とお秋」を好演した70歳を超えた岡村喬生も健在 であるが、中堅・若手では新国立劇場で聴くことの多い妻屋秀和がきわだっており、いつも満足 させてもらっている。(2007.8.20記)

9.オペラ・ツアー I:

(1)欧州オペラツアー

  欧米のオペラハウスを巡る「オペラ・ツアー」なるものに 一度は参加したいと前々から思っていたが、4年程前にやっと夫婦での参加が実現した。郵船航空の「ヨーロッパ・オペラツアー」で ミュンフェン、ウィーン、チューリッヒ、及びロンドンのオペラハウスを巡るツアーに参加したものであり、勿論、昼間は、観光もできた。 結論から言えば、旅を2倍楽しめて、大満足であった。オペラはかぶりつき、ホテルは一流であると共に、このツアーは、参加条件が すこぶるフレキシブルであるため、個人の好みに合わせた内容にできる利点があった。因みに、旅程表も共通ではなく、個人別に配られた。 我々夫婦の場合は、全部で8つのオペラは、5つにとどめ、ノイシュヴァンシュタイン城やザルツブルク観光を加え、 ホテル隣接ゴルフ場でのプレイも計画した盛りだくさんなものになった。 20人位のツアーであったが、音楽の専門家や常連のオペラ通 もかなり入っていたようである。ウィーンでの日中の自由行動の日、昼食で同席したウィーンに大変詳しい一人旅の白髪の紳士が、 我々がウィーンが初めてと知り、気さくに中央墓地、ベートーベンの住まい等の吊所を案内していただいたが、 この方が循環器の大権威で専門の医学書書も多数執筆されている一方、「音楽夜話」の著者でもある五島雄一郎先生であることは、 後で知った。 オペラ歌手では、「清教徒」のグルべローヴァ、「フェドーラ」のバルツァ、「フィガロの結婚」のターフェルが特に 良かった。また、オペラハウスでは、次項で取り上げたチューリッヒが印象に残った。 (98/10)

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(2)チューリッヒ歌劇場

チュ*リッヒのオペラハウスは、 チュ*リッヒ湖に面した一等地に立地してはいるが、外観は地味で目立たない中規模のハウスである。しかし、内装はクラシックな美しさに溢れている。 大理石の彫像のついた柱等設計の旧さを感じさせる一方、全体は新築のようにきれいである。座席数も1100程度なので平土間の奥行きも短く、 後ろの席でも声が良く通るようだ。帰国後調べたところ、柿落としが1891年であるが、1980年に近代的な歌劇場に立て替えるか、 旧設計を残して改築するかについて国民投票を行った結果、改築案が支持され、1982〜1994年に原形を残して大改築を行い、再誕生させたとのことである (GRAND OPERA V,1993)。オペラハウスの建替えの是非を国民投票にかけたと言うことからは、その国におけるオペラに対する評価の高さが感じられ、 ちょっとうらやましい気がする。(98/10)

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(3)本場のブーイング

話しには聴いていたが、本場のオペラファンのブーイングの凄さには、驚いてしまった。ウィーンの国立歌劇場でベルリーニの「清教徒」を聴いた時であった。たまたま初日であったこともあり、地元の耳の肥えた常連が多数いたのであろうか。 声も演技も完璧で、また、特にウィーンでは抜群の人気を誇るグルベローヴァ(エルヴィラ)には、最大級の拍手が送られたが、超高音を出さねばならない アルトゥーロ役のテナーには、手厳しいブーが浴びせられた。確かに、素人の私から見ても、高音は苦しく、声につやが無く、「予習」のため出発前にみた藤原歌劇団 が国内初演した際のビデオの中のアルド・ベルトロの素晴らしい声とは比較にならず、拍手も手控えたくなる程にひどいものではあったが、 「義理」の拍手に対してこれを制する「シー!」と言う声が場内に響きわたった。しかし、このように厳しい舞台経験をすることによって歌手は鍛えられ、 成長するのかなと感じ入った。(98/10)

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10. オペラツアー II:

(1メット・オペラツアー(2000.4.30〜5.7)

 6年前のヨーロッパ・オペラツアーがオペラ、観光とも楽しめ、大変素晴らしかったので、 今回も 「郵船トラベル」の約一週間のメトロポリタン・オペラツアーに夫婦で参加した。公演は、ワグナーの「ニーベルングの指輪(4部作)」、 ヘンデルの「ジュリオ・チェーザレ」及びプッチーニの「ボエーム」の中からの選択だったので、我々は、オペラは「指輪(リング)」のみに絞り、残りの2日は、 ミュージカル(「ミスサイゴン」=「マダムバタフライ」のヴェトナム版)及びワシントンの一日観光(アーリントン墓地、リンカーン・メモリアル、 ホワイトハウス、スミソニアン博物館等)に当てた。オペラツアーでは、昼間は大抵自由時間なので、この他、自由の女神、エンパイアステートビル、 メトロポリタン美術館、セントラルパーク等の名所訪問、「オイスターバー」等有名なレストランでの食事や五番街でのショッピングを楽しむことが出来た。 特に今回は、ホテル(Westin:Essex House)がセントラルパーク南面に接した一等地にあり、オペラハウスへは歩いて10分足らず、ブロードウェイの劇場街等へも やはり歩いて10分位の好位置だったのがありがたかった。地下鉄にも何回か乗ったので、町の様子がかなりよく解った。地下鉄は、 昔と余り変わらずきれいではなかったが、十数年前の記憶では薄汚かった「グランド・セントラル駅」が見違えるように立派に改装されていたのには、驚かされた。 (00/6)

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(2)メトロポリタン歌劇場

1883年に開場した歴史のあるオペラハウスであり、全米では勿論トップであり、ミラノ・スカラ座、ウィーン国立歌劇場などと共に世界でも有数のオペラハウス であるが、火災焼失・再建を経て現在のリンカーンセンターに建設されたのは、比較的新しく1966年とのことである(座席数3,788)。経営者、 総監督の方針や時勢によって出し物の傾向も変動してきたようであるが、現在は、古典から現代物まで幅広いプログラムが組まれており、 世界各国から超一流の歌手を集めている。場所は、ニューヨーク、マンハッタンの中央にあるセントラルパーク南端の西側、ブロードウェイに面した一等地に位置して いる。地下鉄の駅とも連絡しており、地の利がある。建物は、特に豪華ではないが、近代的なデザインで正面の左右ににシャガールの大作が飾られている。また、 隣のフィッシャーホール(ニューヨーク・フィルの本拠地)等と共通の音楽関連の売店(CD、ビデオ、関連グッズ)もある。なお、最近のオペラ上演では、 字幕付きが一般的になってきたが、メットの字幕は、ステージの上(欧米)や左右(日本)ではなく、前席の椅子の背中についており、大変見やすい。 しかも真正面からしか見えないように工夫されているので他人の邪魔にならない。その他、大変うらやましく思ったのは、 寄付金の多さである。無料で配られるプログラムの末尾に数千名もの名簿が付されている。(00/6)

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(3)リング

ワグナーの「ニーベルングの指輪」、通称「リング」は、 総演奏時間が14時間を越える「四部作(或いは前夜祭+三部作)」であるが、その長大さ等の特殊性のため、作曲者自身が希望したと言われる4作を一週間以内で 上演することは、容易ではない。日本人の手によるリングは、1969年に「ラインの黄金」が初演されて以来、「神々のたそがれ」が初演されるまで、 実に22年間もかかっているとのことである。新国立劇場でも、やっと2000-2001シーズンの「ラインの黄金」を皮切りに毎年1作づつ、 4年間かけて上演することが発表された。今回のメット公演は、指揮が長年常任指揮者を勤めるジェームス・レヴァイン、演出がオットー・シェンクで、 きわめてオーソドックスなものである。1986〜1988年に、4曲が単独に上演され、1989年にメットとしては、半世紀振りに一週間内でのサイクル(通し) 公演がなされた。1997年に再演があり、今回がこの組合わせでは3回目とのことであった。今年の3月から5月にかけて3サイクルの公演があったが、 定評のあるコンビの多分最終公演になること、ドミンゴがジークムントを歌うことなどで前評判が高かった。我々は、「オペラツアー」のお陰で、 入手困難とも言われた4作通しの券を入手できたのは、幸いであった。演奏は、さすがに世界のトップクラスの歌手を集め、聴き応え十分であった。 特に主役のウォータンを歌ったジェームス・モリス、ジークムントのプラシド・ドミンゴ、ブリュンヒルデのジェーン・イーグレン、 脇役ではフリッカ及びワルトラウテを歌ったフェリシティー・パーマーが声、歌唱力とも素晴らしかった。しかし、大役のジークフリートは、 今回がメットデビューのデンマーク出身のスティ・アンデルセンが歌ったが、声の張りが不足で失望した。ヘルデン・テノールの難役と言うことは十分解るが、 同じ席で前々日聴いたドミンゴの年齢を感じさせない素晴らしさとは、比較にならなかった。(ニューヨーク・タイムズ紙が彼についてかなり好意的な批評を 載せていたのは意外であった。)ブリュンヒルデのイーグレンは、ジークリンデのヴォイトとともに声は圧倒的であったが、容姿も又イメージを損なうほどの 巨躯であった。装置は、スクリーンを巧みに利用したもので、見事なものであった。特に天を突く石造りのワルハラ城に虹が懸かるシーン、炎に包まれた岩山で ブリュンヒルデが眠りにつくシーンなどは、体を引き込まれるような極限的な美しさであった。しかし、難点をあげれば、作曲者の意図に忠実に従ったためか、 全般的に舞台が暗すぎることであり、歌手の表情はもとより動作もよく見えない場面があった。歌手にスポットライトを当てても全体の雰囲気を損なうことは無かった のではなかろうか。4夜の公演を見終わり、ワグナーが四半世紀をかけて完成した大作の素晴らしさと、長さの「必然性」を実感することが出来た。(00/6)

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11. オペラ・ツアーV

金婚式も3年後に迫った我々夫婦にとって、今年は喜寿と古稀という記念年にあたるので、久し振りに遠出しようということになり、 以前から関心の強かったナイル川をクルーズで下る旅に申し込んだが、その後の現地の政情が急に不安定になったため、これを キャンセルし、結局、ウイーンとベネツィアをまわる「郵船トラベル」のオペラツアーに 参加することにした。

(1)ウィーン(2013年、9月16〜18日)

 ウィーンを訪れるのは2度目であったが、ホテルも前々回のオペラツアー(1994年)と同じ インターコンチネンタル ウィーンあった。 17日の午前中は、市内観光で聖シュテファン大聖堂、国立歌劇場博物館などを廻った。昼食は、モーツアルトやベートーベンも 来店し壁にサインを残しているウィーン最古のなかなか良い雰囲気の レストランでとった。 料理は口に合わなかったが、発酵途中のぶどうを原料としたアルコール飲料 “シュトルム”は、なかなか美味かった。
午後、ウィーン国立歌劇場で「オテロ」を観た。オテロ:ホセ・クーラ、 イアーゴ:D.ホロストフスキー、デズデーモナ: アニヤ・ハルテロス という豪華なキャステイングであった。 クーラは、実演では初めて聴いたが、1990年代の全盛期を過ぎたとはいえ、まずまずの好演であった。10年程前、NHKホールでプロコフィエフの 「戦争と平和」での主演を聴いて以来ファンになったホロフトフスキーのイヤーゴ役は初めて聴いたが、さすがに見事な歌唱・演技であった。 デズデーモナを歌ったアニヤ・ハルテロスも初めて聴いたが、実績通りの実力者であり、やはり好演であった。
一方、クリスティン ミーリッツの演出は、スクリーンの多用は効果的ではあったが、大道具や衣装が貧弱で、視覚への 訴えるものが少なく、上満が残った。なお、この歌劇場にもMET同様、各座席の前に字幕装置(原語/英語)が設けられていた。
翌18日のシェーンブルン宮殿観光(オプショナルツアー)は、前回訪問しているのでパスし、前回行けなかった 美術史美術館を朝一番に 訪れた。ヨーロッパの三大美術館の一つとも言われるこの美術館は、建物も展示作品も素晴らしかったが、借りた日本語の音声ガイドが 実態と合わず、苛立った。昼食を軽食で済ませ、午後、ウィーンフィルのニューイヤー・コンサートなどで おなじみの ウィーン楽友協会内部の見学ツアーに参加した。響きの良いこのホールでの演奏を聴けなかったのは残念であったが、大ホールの 中央に座ってじっくりと美しい内部を観ることが出来、うれしかった。小ホール(ブラームス・ホール)も同様に美しかった。
夜は、これも一度は入ってみたかったフォルクスオパーで 「フィガロの結婚」を観た。歌手は初めて聴く人達ばかりであったが、脇役に至るまで実力者がそろい、なかなかの好演であった、最近の 日本では少なくなった母国語(ドイツ語)公演であったが、喜劇的な大きなアクションの演出と、ゴブラン調の明るい壁紙を多用した 舞台が見事で、大変楽しい公演であった。

(2)グラーツ、ブレッド湖(9月19〜20日)

19日の朝ウィーンをバスで発ち、グラーツ経由でスロベニアに入った。オーストリア第二の都市(人口:30万人) グラーツでは世界遺産の旧市街及び「豊臣期大坂図屏風」 が数年前に発見され大きな話題になった、やはり世界遺産に登録されたエッケンベルグ城 を見学した。また、市内散策の途中、中には入れなかったが、往年の名バリトン大橋国一が活躍した グラーツのオペラハウスの前も通った。
その後、スロベニアに入り、ブレッド湖畔 Vila Bledに宿泊。このホテルは、ユーゴ時代、当時のチトー大統領の別荘として使われていたというだけに、景観抜群であった。 20日は、ブレッド湖観光の後、首府リュブリャーナ経由でイタリアのヴェネツィアへ移動し、サン・マルコ広場近くの ホテル:パレス・ボンベッキアーティに入った。

(3)ヴェネツィア(9月21〜23日)

ベネツィアも数年前のイタリア 旅行でも一度来ているが、相変わらず観光客が溢れていた。特にこの日のヴェネツィア港には、11万トンのRuby Princess号 をはじめ13隻の豪華客船入港していた。
21日は、市内の半日観光として、サンマルコ大聖堂、リアルト橋等の名所を徒歩とゴンドラで回った。 午後は、前回は入れなかった憧れの フェニーチェ劇場で、しかもこの劇場で初演された「ラ・トラヴィアータ」を鑑賞した。 Jessica Nuccio(ヴィオレッタ)Piero Pretti(アルフレッド)Dimitri Platanias(ジェルモン)等による演奏も良かったが、劇場内部の美しさに見とれてしまった。 しかし、意外だったのは、さほど大きくはない劇場(1,400席)なのに補助的にPAを利用しているらしいことである。我々10人は右側後部の席であったが、 歌手が舞台の左側で歌った場合のみ、そのあたりに隠しマイクがあるのか、座席の右側から拡大された声が聞こえてきた。ほぼ全員が 違和感を持ったことからもPA利用は間違いないと思われる。
22日の午前中は、レース編みで有名な ブラーノ島、ヴェネツィア・ガラスで有名なムラーノ島を観光した。
午後は、本島南部で開催中の ビエンナーレ国際美術展に出かけた。テーマ館のアルセナルや街中に散在する作品を見て回ったが、 残念ながら半日では膨大な展示作品の半分も見られなかった。なお、この日の夕食で食べたオリーブオイルと月桂樹の葉で味付けしたイタリア風の ウナギ料理“roast eel”は大変美味かった。
23日は、旅行前に読んだ塩野七生の名著 「海の都の物語」で知った海洋史博物館へ朝一番で 出かけた。昔のガレー船の大型模型等が展示されており、 なかなか面白かった。
午後、ヴェネツィア空港からアムステルダム経由で一路帰国の途についた。(2013.9.28 記)

12. 「METライブビューイング」

13. オペラ・サロン/音楽ビアプラザ

 オペラハウスに出かけオペラを 鑑賞しようとすると、通常のコンサートの2〜3倍のお金を出さないと、良い席は確保できない現状であるが、服装にも気を使うことなく、気楽に食事をしたり 、ビールを飲みながらオペラやオペレッタの雰囲気を楽しめるのが”オペラ・サロン”とか”音楽ビア・プラザ”とか呼ばれている店である。  秋葉原近くの"オペラサロン・トナカイ”は、飲食費の他に席料(ミュジック・フィー)が 3,000〜3,500円かかるが、ホールの音響効果も良く、食事をしながらオペラを楽しめる大変良い雰囲気のサロンである。 月に2回コンサート形式で有名なオペラのハイライト版を上演しているのが特長である。
 一方、銀座七丁目の ”音楽ビアプラザ・ライオン”は、もう少しくだけた雰囲気であり、文字通りビールを飲み、 おしゃべりをしながらオペラのアリアや歌曲を楽しむことができる。 腕達者なヴァイオリンやピアノ演奏も入り、曲目もバラエティーに富んでいる。場所も良く、料理もおいしいので、 日程表でひいきの歌手の出演日に合わせて出かけるのを楽しみにしている。 いずれの店も歌手のレベルは高く、オペラの通常公演で主役や準主役を歌っている歌手や 将来を嘱望されている新人も何人かが常連になっている。また、ミニ・ホールなので、どの位置で聴いてもオペラハウスのS席同様間近に素晴らしい肉声を聴くことが できるのが素晴らしい。(98/12)

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14.ビデオ・コレクション

  片面が4分しかなかった戦前のSP時代は別として、LP時代に入っても聴くだけのオペラ鑑賞は、よほど有名な曲の場合はともかく、 言葉はもとより舞台のイメージがわかず、まさに楽しみは半減であった。ことに国内においては、上演される曲が限定されていたため、 全体像をつかみ得ない名曲オペラも多かった。ビデオ・デッキややLDプレーヤーは、オペラファンにとっては、まさに「魔法の箱」である。 欧米の一流の劇場でのより抜きの歌手による公演が、字幕付きで自宅で鑑賞できる現状は、30〜40年前には想像もできなかった。 私の場合も、 丁度20年前の1978年はじめに”HiFiでない”第1号のビデオをかって以来、何台も買い換え、3年前には究極のビデオともいえるハイビジョンのビデオを 買い、主にオペラを録画・再生して楽しんでいる。VHSで録画したオペラも150曲くらいになり、ハイビジョンのものも25曲ほどになった。特にハイビジョンで 放映された1993年メルビッシュ音楽祭の”メリー・ウイドウ”や1995年ブレゲンズ音楽祭の”フィデリオ”等の素晴らしさには並の実演以上の感動を覚える。 なお、オペラのビデオやLDもかなり多く市販されてはいるが、国内の歌手による公演は、ほとんどないのが残念である。商業的な採算からやむを得ないのかもしれないが レベルの高い公演もあり、ファンとしても保存しておきたいものも多くある。二期会等では記録として全ての公演のビデオを持っているはずなので、若干割高になってもやむを得ないが、市販していただきたいものである。出始めの数年間は、やはり外人演奏家のものばかりであったCDも、近年は邦人の依る吊盤が多く見られるようになった。オペラにも同様のことを期待したい。(98/12)

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15.新国立劇場

(1)立地・建物・運営

現在、 日本のオペラ上演の中核となっている新国立劇場(オペラ劇場)は、1997年の完成からは や2年近くになったが、第二国立劇場(通称二国)として計画が取りざたされ始めたのは、20年前後も前の事ではなかろうか。 その後計画は、遅々として進まず、何年か前に、やっと場所が筑波に移転した東京工業試験所の跡地(渋谷区初台)に決まり、建設が開始 された。ここは京王線初台駅から徒歩1分であり、新宿副都心からも近いが、目の前を高速道路が走っており、オペラハウス建設の適地 とは言い難い。やはりロビーのガラス越しに公園等の緑が目に入るような都心の一等地に立地して欲しかった。ただ初台も、空中権売買 などがあったのか隣接地も並行して再開発され、モダンな一郭(オペラシティー)となったのは幸いである。劇場の外部やロビーは、 コンクリート打っ放しの柱の林立などでやや殺風景ではあるが、劇場そのものは華美ではないが天井から床、椅子まで木で統一され、 響きも良く満足できる設計だといえる。客席数についても二国問題の当初から激しく論争されたが、建設予算の関係などから 1,800名となった。このため、興行面からは、採算的にやや苦しいのかもしれないが、観客にとっては後部席でも聞き易く、 結果的には丁度良かったのではなかろうか。運営に関しては、 専属オーケストラの問題等未解決事項が山積と言うところかと思われるが、こけら落とし公演以来国際水準の公演も多く、日本でのオペラ ファン急増にも寄与しているように思われる。今後の動向を暖かく見守って行きたい。 (99/2)

追記-1(2003.3.10):
新国立劇場の2003/2004シーズンは、オペラ芸術監督が五十嵐喜芳からトーマス・ノヴォラツスキーに交代する最初の年であり、その公演予定曲目、 出演歌手名などが公表された。同劇場として初演のオペラ演目については、特に異論は無いが、再演の4曲(「フィガロの結婚」、「トスカ」、「サロメ」及び 「カルメン」)は、「フィガロ」以外いずれも3回目であり、少々偏り過ぎているのではなかろうか。とりあえず再演は2回までとして、 貸し劇場公演を含めて初演である「フィデリオ」、「トリスタンとイゾルデ」、「タンホイザー」)、 「ファウスト」、「オテロ」等のスタンダードナンバー公演を先にしてもらえれば有難い。 一方、このシーズンからの大きな変更点として、従来はダブルキャストで行ってきた公演が、シングルキャストで、しかも主役級は殆ど外国人歌手に決定したことである。  折角原語公演にも慣れてきた有力な日本人歌手の出演が極端に減ってしまった(未定の「鳴神」/「俊寛」を除くとわずか6人のみ)のは、大変残念である。 歌手にとっては、国際的な活動のための経験を積むことのできる絶好の場を失うとともに、オペラファンにとっても、 馴染みの日本人歌手目当てに公演日を選択する楽しみがなくなってしまった。シーズンの前半後半に振り分け、 同一曲目について日本人歌手中心の公演を組む等の方策を採ることはできないものだろうか。また、新国立劇場は、機能が抜群に高く、音響効果も優れているが、 外国の主要オペラハウスに比して劇場利用率が低すぎるのではなかろうか。自主公演数の増加が望ましいが、予算等の制約が大きいのであれは、 「貸し劇場公演」をもっと積極的に行うべきではなかろうか。なお、新国立劇場は、政府の行政改革推進事務局案によれば、 いずれ全面的に民間委託化されるようだが、アジアの中核オペラハウスとして、今後一層の発展を期待したい。

(2)バックステージ・ツアー

新国立劇場は、数年前に建設されただけに、舞台機構としては世界的にも最新鋭のものとなっている。この劇場には、開場以来すでに 30回以上通ったが、オペラを観賞しながら舞台転換の素晴らしさに感心することが多かった。「バックステージ・ツアー」は、 この舞台機構をわずか500円の参加料で見せてくれるもので、毎月2日(2回/日)程実施されている。 このツアーには当初から 是非参加したいと思っていたが、1回に20人程度の小人数のツアーなので、すぐ売り切れてしまい(チケットぴあ:電話予約不可)、 やっと今回(2001.4.7)参加の機会を得た。 標準的なオペラ劇場が4面の大きな舞台を持つこと(プロセニアム形式)は、よく知られているが、実際に舞台に上がってみるとその広さ に驚かされた。奥行き(主舞台+奥舞台)は、客席最後部までよりも長く、また、主舞台、上手及び下手の側舞台及び奥舞台を合わせた 面積は、客席面積の3倍にも達するとのことである。主舞台には、上下(+4.5m〜-15.7m)に個別或いは一体として動く5枚の迫り (昇降機構)を持ち、上手・下手の側舞台にはやはり各5枚のトラッキングワゴン(左右の移動装置)がある。 また、奥舞台は直径16.4mの廻り盆付きスライディング・ステージ(18.2mx18.2m)を持っている。主舞台は、舞台面から奈落までは 15.7 m、天井部(スノコ)まで30.5 mもある。天井部には、おのおの1.2トンを吊ることの出来るバトン(吊り棒)が59個も備えられている 今回のツアー当日は、「ラインの黄金」の舞台装置がセットされていたが、客席から見るのと違い、装置の裏側にはレールやモニターTV が付いていたり、なかなか複雑で制作や操作の苦労が忍ばれた。一方、オーケストラピットは、147m2であり、4管編成(120人程度)の オーケストラを入れることができる。ピット深さは可変(0〜-2.65m)方式となっている他、部分的な電気的故障対策等に細かい配慮が されていた。なお、ステージツアーには含まれていないが、時々オペラが上演される中劇場も大劇場同様のプロセニアム形式を採っている。 舞台構造を知った上でオペラを観ると、演出に対する興味も一段と高まるように思われるので、オペラファンの方には、是非一度この ツアーに参加されることをお勧めしたい。(2001/5)

(3)開場記念及び1998/99シーズン公演

(4) 1999/2000シーズン公演

(5) 2000/2001シーズン公演

(6)2001/2002シーズン公演

(7)2002/2003シーズン公演

(8)2003/2004シーズン公演

(9)2004/2005シーズン公演

(10)2005/2006シーズン公演

(11)2006/2007シーズン公演

(12)2007/2008シーズン公演

(13)2008/2009シーズン公演

(14)2009/2010シーズン公演

(15)2010/2011シーズン公演

(16)2011/2012シーズン公演

(17)2012/2013シーズン公演

(18)2013/2014シーズン公演

(19)2014/2015シーズン公演

(20)2015/2016シーズン公演

(21)2016/2017シーズン公演

(22)2017/2018シーズン公演

(23)2018/2019シーズン公演

(24)2019/2020シーズン公演

(25)2020/2021シーズン公演

(26)2021/2022シーズン公演

(27)2022/2023シーズン公演

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16. マリインスキー劇場

  99年4月末から5月上旬にかけての連休にロシアの2大都市(モスクワ、サンクトペテルブルグ)の観光旅行をした際、幸運にも伝統 のあるサンクトペテルブルグのマリインスキー劇場で2夜にわたって バレエ(”眠りの森の美女”)とオペラ(”フィガロの結婚”)を観る機会を得た。粉雪がちらつく寒い1週間ではあったが、 エミルタージュ美術館をはじめとする素晴らしい文化遺産や見事に復旧したサンクトペテルブルグの都市景観に感嘆するとともに、 ”オペラ・ツアー”に参加したような満足感をも味わうことが出来た。マリインスキー劇場は、ロシア文化のシンボルともいわれているが、 同劇場は、1783年に設立されたサンクトペテルブルグの「ボリショイ劇場」にそのルーツをもち、当初はサーカスの興行等にも用いられて いたようだ。火災による焼失などで、数回建替えられた後、1860年の建替えの際に純音楽用に設計された劇場となり、マリインスキー劇場 と名付けられたとのことである。その後、幾度かの改装があったが、19世紀末の豪華な内装は、ほぼ現在にまで引き継がれている。 第二次大戦では、独軍の攻撃により20発以上被弾し、大きな損傷を受けたが、市民の期待に応え、1944年には完全に修復を完了している。 その後も機能面での改造が間欠的に行われたようであるが、椅子は木製で三個づつ連結して置いてあるだけだったり、全体的にはかなりの 老朽化は隠せない。しかし、何と言ってもモスクワの「ボリショイ劇場」と共にロシアを代表するオペラハウスであり、 「スペードの女王」、「イーゴリ公」などのオペラやバレエのビデオでおなじみの独特の緞帳を目のあたりにして、大いに感激した。
 なお、バレエ「眠りの森の美女」は、同行の「バレエ通」K氏に よると、初演に近い古い演出の再現とのことであった。オーロラ姫を踊ったビシニョワをはじめとする粒ぞろいの踊り手、華麗な衣装と 共に、オーケストラの響きの良さが印象的であった。 オペラ「フィガロの結婚」は、ロシア語字幕スーパー付きの原語上演であったが 全体のレベルは高く、特にスザンナを歌ったアンナ・ネトレプコの美声が印象に残った。演出は、コミカルな面を可成り強調したもので あった。(99/5)

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17. 奏楽堂

上野の森には、「奏楽堂」が二つあり、多少紛らわしい。一つは、芸大構内に比較的最近オープンした近代的な コンサート・ホールであり、芸大関係者中心のコンサートからオペラまでが上演されている。もう一つは、芸大のすぐ近くの上野公園内 に移設された「旧東京音楽学校奏楽堂」である。明治23(1890)年に建てられたもので、日本初の洋式音楽ホールである。 半世紀以上前の小学校時代の講堂を想い出すような木造の建物であるが、かってこの舞台で、山田耕筰が歌曲を歌い、三浦環が 「オルフォイス(オルフェーオとエウリディーチェ)」でデビューを飾り、ベートーベンの「第九」や「運命」の初演も行われた由緒 あるホールである。この歴史的な建物は、全体が「重要文化財」に指定されており、300円の入館料で見学することが出来る。 この奏楽堂では、通常(有料)の音楽会も開催されるが、芸大学生中心の無料(入館料のみ)コンサートも定期的に開催されているのが 特長である。「木曜コンサート《は、芸大学生の部門別のコンサートであるが、直ちに第一線で活躍できるような有望な人材も含まれて いる。例えば、今年の1月の「声楽部門(日本歌曲)」のコンサートで好演した渡邊 史は、「オペラサロン・トナカイ」でも活躍して いる(その後もオペラやオペレッタの舞台等で活躍中)。しかし、第三木曜日の午後(14:00〜)開催なので、勤め人にはなかなかチャンスがないのが残念である。 また、日曜日の 午後2時と3時には、短時間ながら第一と第三日曜はチェンバロ、第二及び第四日曜は日本最古のコンサート用オルガンをやはり無料で 聴くことが出来る。
一方、 芸大構内の「奏学堂」 も昼間の公演が多いため勤め人には聴くことが無理であるが、各種学内演奏会を無料で公開している。 (99/10)

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18.モーツァルトのオペラ

交響曲、各種協奏曲、室内楽、オペラ等あらゆる分野の名曲を残したモーツァルトではあるが、やはりオペラ が最も高く評価されるべきではなかろうか。私自身は、荒唐無稽な筋はともかく、アリア、重唱の素晴らしい「コシ・ファン・トゥッテ」 が最も好きで、観る機会も多い。 ルードルフ・アンガーミュラー(吉田泰輔訳)の「モーツァルトのオペラ(音楽之友社)」によると、 モーツァルトが作曲したオペラは、下記の22曲とされている。CDでは、ほとんどの曲が発売されているが、ビデオになると数がかなり 減少してしまう。私も、元「日本モーツァルト協会」会員として、極力収集の努力をしてきたが、これまでにまだ11曲(○印)しかなく、 全曲はどうも無理のようであり、諦めかけていた。たまたま先日、「モーツァルト劇場」から、 同劇場公演時の「救われたベトゥーリア」のビデオが発売されていることを知り、早速買い求めた。演奏の水準も高く、映像・音声も上質 であり、貴重なオペラコレクションの一つになった。その希少価値を考慮すると、価格が若干割高なのは、やむを得ない。今後も、 「アルバのアスカニオ」や「ルーチョ・シッラ」等の名曲のビデオが、世界に先駆けて発売されることを期待したい。(99/12)

 

(「モーツアルトの切手《より)

「第一戒律の責務」、 ○「アポロとピアチントゥス」、「バスティアンとバスティエンヌ」、「ラ・フィンタ・センブリチェ」、○「ポントの王、ミトリダーテ」、 ○「救われたベトゥーリア」、「アルバのアスカーニオ」、「シピオーネの夢」、 「ルーチョ・シッラ」、○「偽りの女庭師」、○「牧人の王」、「ツァーイデ(後宮)」、 ○「イドメネーオ」、○「後宮からの誘拐」、「カイロの鵞鳥」、「騙された花婿」、「劇場支配人」、○「フィガロの結婚」、○「ドン・ジョヴァンニ」、 ○「コシ・ファン・トゥッテ」、○「魔笛」、○「皇帝ティトスの慈悲」

追記: 2006年にモーツアルトの生誕250周年を記念して、ザルツブルグ音楽祭で全22曲が上映され、今年、順次これらが DVDとして発売された。おかげで筆者も未収集であった10曲を無事入手することができた。なお、この「Mozart 22《 と銘打たれたザルツブルグ音楽祭の公演は、近年欧州で流行っている"Eurotrash"と呼ばれる奇抜な演出の もの("カイロの鵞鳥")、人形劇と組合わせた秀抜な演出のもの("劇場支配人/バスチアンとバスチエンヌ")、 現代作曲家の作品と融合させた実験的なもの(ツァイーデ/アダマ)等多彩である。(2007.9.24記)

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19.ヴェルディのオペラ

ヴェルディのオペラの特長は、「国、民族、戦、社会といったやや硬質な題材」、 「男声、特にバリトンの重視」、「オーケストラ、合唱の強化によるドラマの盛上げ」、などと一般に言われているが、やはり「親しみやすいメロディーのアリアが 数多く含まれていること」が一番人気の源泉ではなかろうか。全26曲のヴェルディのオペラの内、ビデオ鑑賞を含めて、これまでに20曲近くを見たが、 残念ながら「ジョヴァンナ・ダルコ」、 「アルツィラ」、「群盗」、「海賊」等まだ見る機会のないオペラが7〜8曲もある。26曲の大半が名曲であるが、個人的に3曲選ぶとすれば「椿姫」、 「ドン・カルロ」、「オテロ」をあげたい。「椿姫」は最もポピュラーな曲であるが、やはりアリアも素晴らしく、 オペラとしての完成度がもっとも高いように思われる。ビデオ等で多くの演奏を聴いたが、ヴィオレッタは、やはりグルベローヴァが一番気に入っている。 一方、「ドン・カルロ」は、ドミンゴ、ブルゾン、オブラスツォワの名演(ビデオ)があり、「オテロ」は絶頂期のデル・モナコの来日公演(1959年)が忘れられない。 昨年(2001年)は、ヴェルディ(Giuseppe Verdi, 1813 - 1901)没後100年ということで、特に多くのヴェルディのオペラが上演された。 「王国の一日(一日だけの王様)」や「2人のフォスカリ」のような珍しい曲も上演され、ファンにとっては有り難い年であった。新国立劇場だけでも 「貸劇場公演」の上記2曲の他に「トロヴァトーレ(1月)」、「リゴレット(2月)」、「仮面舞踏会(5月)」、「ナブッコ(11月)」、 「ドン・カルロ(12月)」の5曲が高いレヴェルで上演され、 二期会公演の「マクベス」(2月、東京文化会館)では斬新な演出に度肝を抜かれた。やはり二期会の「ファルスタッフ(7月、東京文化会館)」もなかなか良かった。 この他、個人的には、ハイライト版の公演であり、合唱もローカルなアマチュアであったが、主役の3人(ヴィオレッタ:崔岩光、ジェルモン:小松英典、 アルフレッド:吉田浩之)が好演した「椿姫」(3月、習志野文化ホール)も強く印象に残っている。

なお、ヴェルディとは関係ないが、2001年の最も印象に残った歌手としては「蝋の女(3月、東京文化会館小ホール)」を独演したエレナ・ルビン (メゾ・ソプラノ)、最も勉強になったオペラは「オルフェオ(10月、オペラシティー・コンサートホール)」、最も楽しかったオペラとしては「唱歌の学校 (8月、東京文化会館小ホール)」を挙げておきたい。(02/01)

20. 学生オペラ

 一昨年から昨年にかけて、東京芸大、お茶の水女子大、及び東大の学生オペラ を観た。まず、芸大オペラは、昨年の秋(99.10.14)芸大の奏楽堂で「コシ・ファン・トゥッテ」を観た。ダブルキャストの2日目で あったが残念ながら傑出した歌手は、見あたらなかったが、さすがに粒ぞろいであり、また、狭い舞台ながら、装置や背景 (特に海の波)にも工夫がみられ、 この名曲を楽しむことが出来た。(声量上足ながらフェランドを歌った稲田昭徳の美声と歌唱力がやや目立った。)また、 例の磁石を手回しの電磁石にしたのは、奇抜な発想であり面白かった。
 お茶の水女子大のオペラ(オペレッタ)は、 文化祭の一環として一昨年が「こうもり」、昨年(11月6日)は「天国と地獄」が同大学の講堂で上演された。無料でもあり、 近所なので出かけたが、正直に言ってガッカリした。歌手は女性だけなので、「宝塚」的な雰囲気になってしまうのはやむを得ないし、 会場の条件の悪さもあったかもしれないが、全体に声量上足が目立ち、歌唱も不安定な人が多かった。伝統もある音楽科主催の公演とし ては、大いに期待に反した。しかし、日本語の台詞も面白く、衣装や小道具にも工夫がみられ、コメディーとしては、なかなか楽しませ てもらった。心ならずも、悪口をついてしまったので、今年の2月(2000.2.12、於:アイリスホール)のお茶大(演奏講座)の卒業公演 にも出かけたが、やはり印象は余り変わらず、可成りのレベルのピアノに比べて声楽の水準が落ちるようなのは残念である。
 東大オペラは、東大の他早稲田、東京女子大、日本女子大、学習院大他校の学生や社会人も混じった多彩な顔ぶれで構成されている 団体とのことであり、数年前の設立以来、年2回の公演を行っている。昨年暮(12月23日)は、「エフゲニ・オネーギン」が、 三鷹公会堂で上演された。レンスキーを歌った内海京久は、なかなかの美声で際立っていたが、全体としては、声量、歌唱力とも いまいちで、チャイコフスキーの名作の良さを満喫するには至らなかったが、過去数年間年2回の公演をこなしているのは、 大変な努力だと思われ、その意欲を高く買いたい。(00/4)

追記(2003.11.28): 先日、お茶大音楽科の現役学生Sさんから、「お茶大の音楽科は、元々プロフェッショナルな演奏家を目指しているというわけではなく、 音楽学を理論と実践の立場から学ぶことを第一の目的としている。また、オペラに参加しているのは、歌科ばかりではなく、ピアノ科からの転向組が多く、 全員が音大の声楽科のように歌を専門に学んでいるわけではない。」という趣旨のメールをもらった。確かに音楽科の学生即声楽家の卵と考えたのは、 当方の認識不足であった。しかし、先日(2003.11.23)、日生劇場で「ルル」を好演した飯田実千代(京大卒)のように、 総合大学卒でオペラ歌手として活躍している人も多くいるので、すでに音楽科のあるお茶大からも実力派の歌手が輩出することを期待したい。 なお、今月(2003.11.8)久しぶりにお茶大の文化祭に出かけ、「こうもり」を見たが、今回の公演は、主役級の歌手の「進化」もあり、なかなかの好演であった。 また、奥行きのない舞台ながら巧みに雰囲気を出した平野力哉の演出もあり、大いに楽しむことができた。

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21.ホールオペラ

  最近「ホール・オペラ」と呼ばれる形式のオペラ公演が流行っている。簡略化した装置と照明のみの舞台、 室内楽或いはそれ以下の規模のオーケストラというように、オペラの金のかかる部分に大なたをふるう一方、なるべく歌手の歌を間近に 聴かせようという試みであり、本格的な公演と演奏会形式のオペラとの中間的な形式である。オペラには欠かせない舞台転換装置のない 通常のコンサート・ホールで上演されるため、本格的なオペラ公演に比べて低料金であること及び中規模のホールの場合には、B席でも 大劇場のS席並の近さで歌手の声を聴く事が出来る利点がある一方、オーケストラが小規模になってしまうことやバレエが省略されてし まったりの欠点もあるため、まさに一長一短がある。まだ試行錯誤の段階であろうか。今年(2000年)の前半に紀尾井ホール(写真)で 「秘密の結婚」、「アイーダ」の2つの「ホールオペラ」を観た。「秘密の結婚」は、元来室内オペラなので簡素な装置やオーケストラ であることの欠点が目立たず、むしろ歌手を間近に見聞き出来る長所が強調され、歌手が全て良かったこともあり、昨年国立劇場の後部席 で見た公演よりはるかに印象が強かった。特に、カロリーナを歌った名古屋木実、及びジェロニモを歌った鹿野由之が素晴らしかった。 一方の「アイーダ」の場合も間近に聴く大島幾雄、関定子等の一流歌手の 迫力は、圧倒的であったが、トランペットの4名以外はヴァイオリン:2名,ヴィオラ、チェロ、コントラバス、エレクトーン(ピアノ) 各1名のみというオーケストラはいかにも寂しく、また、バレエが省略されたため、やはり中途半端な印象は拭えなかった。なお, アイーダのバレエ・シーンは、NHK(BS2& ハイヴィジョン)で 今年放映されたヴェローナ公演(野外)やバレエ界の大御所の森下 洋子がデビュー当時NHK招聘のイタリアオペラで踊っていたものが印象に残っている。(00/8)

追記 I(2002.10.26):
サントリーホールの委嘱によるホールオペラ「TEA」が、作曲者自身の指揮(管弦楽:N響)により10月22,24日に同ホールにおいて世界初演され、 大きな話題となった。ストーリーは、世界最古の茶の書物「茶経」をめぐる高僧(元日本の皇子)と中国皇太子の争いに皇女の愛と死が絡んだ ドラマティックなものである。作曲者のタン・ドゥン(譚盾)は、アカデミー賞及びグラミー賞に輝く現代を代表する作曲者であるが、 作風は本人の言葉を借りれば、「前衛でもなく、伝統的でもなく、西洋的でもなく、東洋的でもない。また、革命的でもなく、慣例的でもない」。 しかし、僧侶の声明の様式を巧みに取り込むなど東洋的な響きが中核となっている。また、水(ガラスボウル内の水を手で叩く)や紙 (吊るした長尺の紙や楽譜等を振って風を表す)を打楽器或いは効果音として用い、茶道にも通じる幽玄の世界を効果的に表現することに成功した。
歌手は、全て初めて聴く人達であったが、欧米での実績のある人達のようで、声、歌唱力とも大変良かったが、特に高僧を歌ったハイジン・フー(Br) の重厚な声と陸を歌ったニン・リャン(A)の美声が目立った。一方、このオペラは、ホールオペラとして作曲されてはいるが、今回の演出では、 オーケストラを挟んで幅広の板舞台を段差をつけて設置し、この間をやはり板で連絡するかなり大掛かりなものであったが、 板の配置は必ずしも”芸術的”とはいえなかった。なお、今公演ではプログラムにリブレット(英語)が添付されていたのは、ありがたかった。

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22.初演オペラ

 名曲としての評価の定まったオペラの 観賞は、曲に酔い、歌手や演出の違いを比較したりして勿論楽しいが、新作或いはそれに準じる新しいオペラの観賞も名曲を「発掘」 出来るかもしれないと言う期待もあり、別の楽しみがある。今秋(2000/11)観た下記の2つのオペラは、大変印象に残る公演であった。

「閉じられた舟(00.11.14、於:日生劇場)」
<ある僧侶の地獄 への旅と生還>という副題を持つこのオペラは、日蘭友好400周年を記念してオランダ政府が石井真木(写真)に委嘱した作品の日本初演 であったが、作曲者自身の意向により、昨年(1999)のユトレヒトでの初演以後、閻羅大王を役者からバリトン歌手に変更するという 大きな改訂があったためか、世界初演のような新鮮さと熱気が感じられた。なお、このバリトン役は、シェーンベルクが 「モーゼとアロン」で試みたような歌唱と語りの中間的なものが要求される難役であったが、池田直樹はゆったりと間を取り、重厚な声 で見事に演じた。僧智暁を歌った英国生まれのナイジェル・ロブソン(テノール)も、役に成りきった名演・名唱であったが、弱声の部分 がやや極端で聞き取り難かった。なお、僧智暁はドイツ語、閻羅大王は日本語という変則的な公演であったが、字幕付きでもあったので 余り気にはならなかった。 演奏は、伴奏というより競奏と言うべき位置付けであり、編成も弦楽器が無く、バス・クラリネットを中心 としたヘート・トリオ、ハーグ打楽器合奏団に横笛の赤尾三千子及び打楽器の山口恭範が加わった特殊なものであった。鉄製の新しい 楽器シデロイホスを含む打楽器群が超絶的な技巧を披露し、通常のオーケストラ編成とは全く異質できらびやかな音の饗宴を現出した。 しかし、衝撃音がしばしば過大で、2階席にいても時には鼓膜障害の恐れを感じる程であった。いずれにせよ、これは20世紀のオペラ の一つの方向を示す力作として歴史に残りそうな予感がした。

<ランスへの旅(00.11.16、於:北とぴあ・さくらホール)>
 日本ロッシーニ協会の設立5周年記念として、彼の幻の名作と言わ れる「ランスへの旅」の日本人歌手による初公演が行われた。ロッシーニがイタリアを離れ、パリに本拠を構えるに当たって、当時の フランス国王「シャルル10世」に取り入ると共に、自分自身或いはイタリアオペラの力を誇示するため,1825年にこの曲を書いた。 作者自身もこの曲をオペラ・カンタータと定義しているように、出演者が多い割には動き少ないオペラである。しかし初演の評価が高 かったにもかかわらず、ロッシーニ自身が楽譜を回収し、その一部を自作の「オリー伯爵」に転活用してしまったため、原型を留める楽譜 が逸散し、やっと十数年前に研究者の手によって復元上演された。その後さらに追補があり、今年(2000年)にやっと確定版の楽譜が出版 されるに至ったとのことである。このオペラは、ロッシーニ独特の装飾音符の多い難曲を歌うソリストを十数名必要とするため、名作で あるにも拘わらず演奏機会が少く、我が国では1989年にウィーン国立劇場が来日公演しているだけである。
今回の公演は、佐藤 美枝子、佐橋美起、五郎部俊朗、黒崎錬太郎、牧野正人等内外の音楽コンクールで1位或いは上位入賞の実績を持つソリストを集めた豪華 版であり、歌合戦のように次々と歌われるアリアや重唱、ブッファ的な挿話もありCDを聴くだけでは想像出来ない楽しいオペラであった。 歌手では上記の歌手の他、家田紀子、羽山晃生、阪口直子等も好演であった。

なお、これら2作のような記念碑的なオペラ公演は、 主催者或いはどこかの会社がビデオ販売してくれるとありがたい。(00/11)

追記I(2002.11.18):
日本人作曲家オペラシリーズIIIとして、久保摩耶子作曲・台本の「羅生門」が今月(2002.11.15/17)に日生劇場で上演された。原作は、黒澤映画の 「羅生門」同様、芥川龍之介の「藪の中」である。このオペラは、1996年にオーストリアのグラーツでドイツ語による世界初演が行われているため、 今回は日本語の台本による初演となった。作曲者久保摩耶子のヨーロッパでの活躍ぶりは、プログラムを見て始めて知ったが、なかなかの力量を持った人のようであり、 今後も活発な作曲活躍が期待される。
このオペラの音楽は、和太鼓を中心としたパーカッションが活躍し、緊迫したドラマを大いに盛り上げた。しかし、第一幕5場の歌の無い「凌辱」 の場面は曲も動きもやや冗長であり、一工夫欲しかった。また、原作に無い黒マント姿の聴衆(コーラス)を登場させ、ストーリー理解の一助としたのは良かったが、 やはり追加したエピローグ(第二幕10場)は、カットした方がかえってドラマが引き締まったような気がした。 舞台装置は、崩れかかってはいるが骨太の黒っぽい山門に設けられた「法廷」だけであったが、重量感もあり、工夫された照明と相俟ってなかなか見ごたえがあった。 また、回想の場面では山門が開き、強烈な光線に乗って人物が現れる演出は、意外性もあり、大変印象的であった。
一方、歌手は、主役、脇役とも概ね好演であった。真砂を歌った森川栄子(S)は、初めて聴いたが、役に合ったクールな響きの透明な声で、 声のコントロールが素晴らしかった。多襄丸を歌った星洋二(T)は、高音が苦しそうな場面もあったが、なかなかの熱演であった。脇役では長谷川顯(裁判官、Bs)、 井ノ上了吏(警官、T)及び与田朝子(真砂の母、MS)が好演であった。なお、無料のプログラムに台本が添付されていたのは、ありがたかった。 東京オペラシンガーズの合唱も迫力充分であった。

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23.音楽コンクール

(1)日本音楽コンクール
(2)奏楽堂日本歌曲コンクール
(3)日伊声楽コンコルソ
(4)イタリア声楽コンコルソ
(5)日本声楽コンクール
(6)
東京音楽コンクール
(7)日仏声楽コンクール
(8)藤沢オペラコンクール
(9)静岡国際オペラコンクール  

24.オペラとエレクトーン(オペラの将来)

究極の楽器ともいえる人間の肉声の魅力、迫力は、何ものにも代え難く、これが オペラの魅力でもある。近代のオペラではオーケストラにも大きなウェイトをお いたものも多いが、やはりオペラは、なんといっても歌が中心でなければならない。 しかし、オペラが今後何時までも従来と同じスタイルで公演され続けられるとも思えず、 特に新作オペラについては、大きな方向転換が予想される。オペラの大衆化、 普及の観点からは、まず劇場やオーケストラの簡略化が必要となることが予想される。
 劇場につていえば、現在我が国で本格的なオペラ上演が可能な機構を持った劇 場は、東京の新国立劇場他数カ所しかない。従って、オペラハウスの無い地方で は、通常のコンサート・ホール或いは、多目的ホールにおいて上演するしかない が、この場合、劇場機能の上備をカバーするため、映像をフルに活用することが 考えられる。映像の活用については、現在でもかなり取り入れられている。例え ば、今年観たオペラのうちでは、二期会の「マクベス(東京文化会館)」や「ねじの回転 (新国立劇場/小劇場)」などは、その成功例だと思われが、今後さらにハイビジョン化や 立体化(?)等が期待される。中途半端な舞台装置を組むよりは、巧く映像を利用した方が効果的であり、 かつ大幅なコストダウンになるのではなかろうか。
 一方、膨大な経費を要するオーケストラの確保は、特に地方では容易でないようだ。 このため、オーケストラの簡素化及び「エレクトーン」等の電子楽器の利用拡大が予想される。 現実にエレクトーンによるオペラ伴奏も、すでに地方公演等ではかなりの実施例がみられるが、 なるべく低料金で数多くのオペラ公演を行い、オペラファンの層を拡大するためには、 この傾向がさらに拡がる事を期待したい。勿論、エレクトーンでは、 さわやかな弦の響きや金管の咆哮を充分には再現できないが、 スイッチや挿入フロッピーの切り替えでオーケストラにも匹敵する多彩な音色が出せる利点があるため、 コンサートでのオペラ・アリアの伴奏の場合等では、単色のピアノ伴奏よりむしろ優れているように思われる。 なお、この場合エレクトーン奏者には、過大な負担がかかるため、オーケストラの場合同様、 優れた奏者の確保という別の悩みが生じるかもしれない。
 最近、崔岩光との協演などで知った
神田将は、 ポピュラーミュージック界の出身ながら、近年、エレクトーンによるクラシック曲の演奏やオペラ歌手の伴奏に新境地を開きつつあり、 抜群の演奏技術、柔軟な感性を持つと共に、作曲・編曲にも冴えを見せているので、今後の活躍が大いに期待される。 (2001/6)

<追記(2002.12.18)>:2002年12月17日、グリーンホール 相模大野大ホールにおいて第一回オアシスオペラ公演として、演奏を2台のエレクトーン (神田将、種村敬子)と弦楽合奏(東京古典弦楽合奏団)が受け持った「椿姫」が上演された。芸術総監督に巨匠ミヒャエル・ハンペを迎え、 歌手陣にはヴィオレッタ:サイ・イエングアン(崔岩光)、ジェルモン父子:直野資、青柳素晴を配した本格的な上演であった。 合唱はアマチュア中心であったが、舞台も左右及び背面に張られた薄いアクリル板が鏡のような独特の反射効果を発揮し、 総体的には大変素晴らしい公演であった。エレクトーン演奏を取り入れたオペラ公演を観たのは、今回が始めてであったが、 実験的な段階にあるこの試みには、まだ課題が残っているようだ。一つは、今回の公演は、弦楽合奏団との合同演奏であったためか、 エレクトーンの音量を押さえ過ぎたため、盛り上がりに欠ける場面が見られた。また、ハンペ氏や一流の歌手を招いたためか、料金の大衆化 が十分には達成されたとはいえないことなどである。

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25.オペラと映画

新国立劇場のオープン等もあり、ここ数年少なくとも東京ではオペラ公演が一層盛んになったのは大変うれしいが、まだウィーンやニューヨークとは、雲泥の差がある。 従って、オペラをビデオで見る機会はまだまだ多い。市販のビデオ、LD、DVDの場合、(1)オペラハウスでの録画が圧倒的に多いようだが、中には(2)適当な場所を 選んで映画的に撮り、音声をアテレコしたものもある。さらに、(3)歌手と演技者を別人としたものもある。私のビデオ・コレクションの中では、 (1)に分類されるものの中では、幻の名画とも言われたベルイマンの「魔笛」、(2)に分類されるものでは、プライ、フレーニの「フィガロの結婚」、 パヴァロッティ、グルベローヴァの「リゴレット」、ドミンゴ、ストラータスの「椿姫」、シャシュ、コバーチの「青ひげ公の城」等が、また、 (3)の分類では、八千草薫が演ずる1951年の日伊合作の「蝶々夫 人」がこの種のビデオの傑作だと思う。さらに将来は、CG(コンピューター・グラフィックス)を利用し、 部分的にでも劇場では得られない幻想的な効果が楽しめる新しいジャンルのオペラ・ビデオの 出現が期待される。  一方、オペラ或いはオペラ歌手を主題とした映画も多くあり、「オペラと映画の素敵な関係」というような本も出版されている。この種の映画の内、 私が見たものの中で感銘を受 けたのは、古くはオーソン・ウェルズ主演の「市民ケーン」、モーツアルトの本質を見事に表現した「アマデウス」等である。
 最近、今秋ロードショウ予定の「はじまりはオペラ」というノルウェー映画の試写を見る機会があった。 この映画は、複雑な夫婦関係を描いた一種のラブストーリーであるが、主人公がオペラハウス専属のプロンプターであり、目下「アイーダ」のリハーサル中という設定なので、 順上同ながらアイーダの吊場面がふんだんに現れ、間近に見る舞台の迫力も充分である。北京映画祭銀賞を始め、多くの賞も受賞しており、オペラ・ファンには一見をお勧めしたい。 (2001/7)

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26.二つの源氏物語

ここ1年の間に二つの「源氏物語」を観た。一つは「世界劇」 と称されるもので、昨年(2000年)暮れに東京国際フォーラム大ホールで催された。もう一つは、 先日(2001年9月20日)日生ホールで催されたオペラ「源氏物語」である。
前者の「世界劇」は、なかにし礼の総プロデュースにより、芝居と台詞は有名スター(市川団十郎、 市川新之助、佐久間良子、宮沢りえ、松坂慶子、草笛光子等)が演じ、歌は一流のオペラ歌手(福島明也、 錦織健、中丸三千絵、澤畑恵美、永井和子、足立さつき等)が歌うという豪華版であった。甲斐正人作曲の 音楽は、可もなく上可もなかったが、スターも歌手もそれぞれ好演で、世紀末大晦日の催しとしては それなりに楽しかった。しかし、劇やオペラを催すのには5000人収容の会場は、あまりにも大き過ぎた。 歌手はマイクの前で歌ったが、ミキシングの失敗か、歌手の不慣れのせいか判らないが、 天井の大スピーカーから破鐘のような大音響を浴びせられたのには辟易した。2000〜3000人収容の大劇場 でのオペラ公演の際、後部座席では音量上足を感じることも多いので、将来、オプション的に高性能 スピーカー(或いはイヤフォン)を補助的に利用することの可能性を否定するものではないが、 少なくともこの公演では生の声のよさを再認識した次第である。
一方、三木稔作曲、日本初演のオペラ「源氏物語」は、昨年(2000)米国セントルイス・オペラ劇場開場 25周年記念公演の委嘱作品として、初演されたものである。三木稔は、「じょうるり(17世紀)」、 「くさびら(15世紀)」等日本の歴史に沿ったオペラ連作を試みているが、今回の「源氏物語 (10〜11世紀)」もその一環の作品である。台本・演出は、セントルイス・オペラ劇場の芸術監督である コリン・グレアムが担当したが、膨大な物語の一部(前半)を要領よくまとめ、理解しやすくなっている。 音楽は、オーソドックスというか、合唱やアリアが随所にはめ込まれた伝統的なオペラ形式を 採っているが、初めて聴くせいか強く印象に残る部分が少なかった。演奏は、オーケストラ(スチュアート ・ベッドフォード指揮、東フィル)に中国琵琶、琴(二十弦及び七弦)を効果的に配した編成であり、 雅と共に緊迫感が巧みに表現された。また、音を抑え、歌手の声を引き立てる配慮が感じられた。歌手は、 セントルイスオペラ劇場のメンバーが中心であるが、総体的にかなり高い水準にあった。また、今公演は、 字幕付き(字が大きく見やすかった)で英語で歌われたが、意外に抵抗感はなかった。しかし、雅楽、 舞楽を加えた「グランドオペラ版」も構想中ということなので、機会があれば再度「日本語版」で聴き直し てみたい。舞台は、朝倉摂の素晴らしい絵(可動パネル)だけの簡素なものであったが、衣装とその着こなしも見事で、 視覚的には十分堪能することができた。(2001/09)

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27. 無料オルガンコンサート

オルガンの響き、特にその重厚な低音は、心にしみ込み、 精神的な安らぎを与えてくれる。ギリシャ正教を除くキリスト教の教会がこれを常備しているのも紊得できる。 個人的な経験でも、初めての米国出張時に訪れたスタンフォード大学構内の教会で聴いた重厚なオルガン、初めてのヨーロッパ観光旅行の際にセント・ ポール寺院で聴いた荘厳なオルガン、ドイツの工業都市エッセンの小さな教会で聴いた鄙びたオルガンの響きなどが心に残っている。わが国でも近年、 「バブル経済」の副産物と言えるかもしれないが、欧州から輸入した立派なパイプオルガンを備えたコンサートホールが全国各地に建設され、 一般音楽ファンが各種オルガンの音色を楽しむことが出来るようになった。東京では、サントリー・ホール(第2又は第3木曜日、オーストリアのリーガー社製)、 カザルス・ホール(第2火曜日、ドイツのユルゲン・アーレント製)、東京芸術劇場(奇数月の第3木曜日、フランスのマルク・ガルニエ製x回転式2面: 1面はモダンタイプ(A=442Hz)、他面はルネッサンスタイプ(A=467Hz)及びバロックタイプ(A=415Hz)組込み)等 いくつかのホールでは、月1回程度ではあるがランチタイム(12:15〜12:45)に無料(カザルス・ホールは\100以上)のコンサートを開催してくれている。 いずれも短時間(30分程度)の演奏ではあるが、一流の演奏を気楽に聴けるのは大変ありがたい。 別項で述べた旧奏楽堂や一部の教会 (神田キリスト教会等)でもやはり無料のコンサートが開催されている。 また、今年に入ってこれまでオルガンが設置されていなかった 東京文化会館が16個の大スピーカを付属したローランド社製の立派な電子オルガンを購入し、これを記念して先日素晴らしい無料コンサート開催してくれた。 ここでも他のホールのように、定期的に(出来れば45〜60分程度の)無料コンサートを実施してくれるとありがたい。
なお、オルガン以外でも、我が家から徒歩で10分程度のところにある「トッパン・ホール」の新人デビュー・コンサート(月一回程度)や芸大奏楽堂の 「モーニング・コンサート」などの無料コンサートがあり、ウォーキングの途中 などに有難く利用させていただいている。   (2002年5月)

追記 I(2003.12.12): 東京オペラシティコンサートホールでも今年の6月から、「ヴィジュアル・オルガンコンサート」と銘打った 無料のオルガン・コンサート(1回/月、11:45から12:30)が始められた。これは、通常、後姿しか見えないオルガニストを横から TVカメラで撮り、スクリーンに映してくれるサービス付きのもので、しかも演奏時間が45分あるのでありがたい。オルガンは、 クーン社(スイス)製のものである。

追記U(2007.11.24) : カザルスホールは、2002年から日大の所有となり、ランチタイム・コンサートが中断された期間もあったが、 昨夏から低額(\500)ながら有料コンサートとなった。有料化に伴って演奏時間も約1時間に延長され、さらに古楽器や声楽との共演 など内容がバラエティーに富み、大変充実したものとなった。
なお、オルガンではないが、2-3年前に始まった神楽坂の理科大裏に ある「アグネスホテル東京」地下ホールで無料のランチタイム・コンサート が行われていることを1年ほど前に知り、以後数回でかけてみたたが、出演者、ホールの雰囲気とも大変素晴らしかった。自宅からか なり近いところでもあるので、今後も時々出かけることを楽しみにしている。

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28. 祝二期会創立50周年

私が最初に生で聴いたプロの男性歌手は、伊藤亘行(のぶゆき)氏である。これは、たまたま母校(四日市市立富田中学校)の校歌(当時)が在学中に制定され、 校歌の作曲者で地元出身の同氏が発表会の席で歌を披露してくれたためである。同氏は、当時(1950年頃)は「日本音楽コンクール」で一位(特賞) をとったばかりの時期であったが、講堂に響き渡った朗々とした声は今でも生々しく耳に残っている。この伊藤氏が「二期会」発足時の16人の中の一人 であったことは、最近知った。
逆算すると、オペラを見始めた大学生時代(1955-1959)には、「二期会」はまだ発足後間もなかったことになるが、外国オペラ団の公演を除けば、 何故か記憶に残っているオペラは皆「二期会」主催のものである。歌手も現在に比べると層の薄さは否めないが、多くの名歌手を輩出しており、大橋国一のフィガロ、 伊藤京子のデスピーナ等記憶に残る名演も多い。本格的なオペラハウスも無かったわが国において、また、経済的な支援も殆ど無い環境下において、 公演数は充分とはいえないが、半世紀にわたって質の高いオペラ公演を続けて来てくれたことにオペラ・ファンの一人として感謝するとともに、今後のさらなる発展を期待したい。
なお、今年は、この創立50周年を記念して、いくつかの特別公演が開催された。まず、5〜6月にかけて「30日連続演奏会」と銘打った壮大なコンサートが サントリーホール(小)で開催された。これらの内「名古屋木実」、「青戸知」、「福井敬/福島明也」、「腰越満美」及び「佐々木典子/伊原直子」 の5公演に出掛けたが、いずれも熱のこもった好演であった。また、殆どの公演で歌だけでなく司会者或いは歌手自身の「おしゃべり」が挿入されており、 これが大変面白く、歌手に対する親近感が増大した。 7〜8月には、長大な「ニュルンベルクのマイスタージンガー」公演があったが、多田羅迪夫、池田直樹、 大島幾雄、福井敬、佐々木典子、西川裕子等の実力者を並べた、きわめて高い水準の公演で、二期会の実力を再認識させられた。10月には、 「二期会オペラ研修所」が「二期会ニューウェーブオペラ劇場」に名称変更し、所属する若手歌手による「ポッペアの戴冠」の公演があった。古楽器が用いられ、 原曲に最も近いアラン・カーチス版の日本初演という意欲的なものであった。一部の歌手には不満が残ったが(10/5)、鈴木雅明の指揮(及びチェンバロ)による 「バッハ・コレギウム・ジャパン」の 響きが素晴らしく、「オペラの原点」の雰囲気を堪能することが出来た。 (2002.10.10)

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24.オペラとエレクトーン(オペラの将来)

究極の楽器ともいえる人間の肉声の魅力、迫力は、何ものにも代え難く、これが オペラの魅力でもある。近代のオペラではオーケストラにも大きなウェイトをお いたものも多いが、やはりオペラは、なんといっても歌が中心でなければならない。 しかし、オペラが今後何時までも従来と同じスタイルで公演され続けられるとも思えず、 特に新作オペラについては、大きな方向転換が予想される。オペラの大衆化、 普及の観点からは、まず劇場やオーケストラの簡略化が必要となることが予想される。
 劇場につていえば、現在我が国で本格的なオペラ上演が可能な機構を持った劇 場は、東京の新国立劇場他数カ所しかない。従って、オペラハウスの無い地方で は、通常のコンサート・ホール或いは、多目的ホールにおいて上演するしかない が、この場合、劇場機能の上備をカバーするため、映像をフルに活用することが 考えられる。映像の活用については、現在でもかなり取り入れられている。例え ば、今年観たオペラのうちでは、二期会の「マクベス(東京文化会館)」や「ねじの回転 (新国立劇場/小劇場)」などは、その成功例だと思われが、今後さらにハイビジョン化や 立体化(?)等が期待される。中途半端な舞台装置を組むよりは、巧く映像を利用した方が効果的であり、 かつ大幅なコストダウンになるのではなかろうか。
 一方、膨大な経費を要するオーケストラの確保は、特に地方では容易でないようだ。 このため、オーケストラの簡素化及び「エレクトーン」等の電子楽器の利用拡大が予想される。 現実にエレクトーンによるオペラ伴奏も、すでに地方公演等ではかなりの実施例がみられるが、 なるべく低料金で数多くのオペラ公演を行い、オペラファンの層を拡大するためには、 この傾向がさらに拡がる事を期待したい。勿論、エレクトーンでは、 さわやかな弦の響きや金管の咆哮を充分には再現できないが、 スイッチや挿入フロッピーの切り替えでオーケストラにも匹敵する多彩な音色が出せる利点があるため、 コンサートでのオペラ・アリアの伴奏の場合等では、単色のピアノ伴奏よりむしろ優れているように思われる。 なお、この場合エレクトーン奏者には、過大な負担がかかるため、オーケストラの場合同様、 優れた奏者の確保という別の悩みが生じるかもしれない。
 最近、崔岩光との協演などで知った
神田将は、 ポピュラーミュージック界の出身ながら、近年、エレクトーンによるクラシック曲の演奏やオペラ歌手の伴奏に新境地を開きつつあり、 抜群の演奏技術、柔軟な感性を持つと共に、作曲・編曲にも冴えを見せているので、今後の活躍が大いに期待される。 (2001/6)

<追記(2002.12.18)>:2002年12月17日、グリーンホール 相模大野大ホールにおいて第一回オアシスオペラ公演として、演奏を2台のエレクトーン (神田将、種村敬子)と弦楽合奏(東京古典弦楽合奏団)が受け持った「椿姫」が上演された。芸術総監督に巨匠ミヒャエル・ハンペを迎え、 歌手陣にはヴィオレッタ:サイ・イエングアン(崔岩光)、ジェルモン父子:直野資、青柳素晴を配した本格的な上演であった。 合唱はアマチュア中心であったが、舞台も左右及び背面に張られた薄いアクリル板が鏡のような独特の反射効果を発揮し、 総体的には大変素晴らしい公演であった。エレクトーン演奏を取り入れたオペラ公演を観たのは、今回が始めてであったが、 実験的な段階にあるこの試みには、まだ課題が残っているようだ。一つは、今回の公演は、弦楽合奏団との合同演奏であったためか、 エレクトーンの音量を押さえ過ぎたため、盛り上がりに欠ける場面が見られた。また、ハンペ氏や一流の歌手を招いたためか、料金の大衆化 が十分には達成されたとはいえないことなどである。

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25.オペラと映画

新国立劇場のオープン等もあり、ここ数年少なくとも東京ではオペラ公演が一層盛んになったのは大変うれしいが、まだウィーンやニューヨークとは、雲泥の差がある。 従って、オペラをビデオで見る機会はまだまだ多い。市販のビデオ、LD、DVDの場合、(1)オペラハウスでの録画が圧倒的に多いようだが、中には(2)適当な場所を 選んで映画的に撮り、音声をアテレコしたものもある。さらに、(3)歌手と演技者を別人としたものもある。私のビデオ・コレクションの中では、 (1)に分類されるものの中では、幻の吊画とも言われたベルイマンの「魔笛」、(2)に分類されるものでは、プライ、フレーニの「フィガロの結婚」、 パヴァロッティ、グルベローヴァの「リゴレット」、ドミンゴ、ストラータスの「椿姫」、シャシュ、コバーチの「青ひげ公の城」等が、また、 (3)の分類では、八千草薫が演ずる1951年の日伊合作の「蝶々夫 人」がこの種のビデオの傑作だと思う。さらに将来は、CG(コンピューター・グラフィックス)を利用し、 部分的にでも劇場では得られない幻想的な効果が楽しめる新しいジャンルのオペラ・ビデオの 出現が期待される。  一方、オペラ或いはオペラ歌手を主題とした映画も多くあり、「オペラと映画の素敵な関係」というような本も出版されている。この種の映画の内、 私が見たものの中で感銘を受 けたのは、古くはオーソン・ウェルズ主演の「市民ケーン」、モーツアルトの本質を見事に表現した「アマデウス」等である。
 最近、今秋ロードショウ予定の「はじまりはオペラ」というノルウェー映画の試写を見る機会があった。 この映画は、複雑な夫婦関係を描いた一種のラブストーリーであるが、主人公がオペラハウス専属のプロンプターであり、目下「アイーダ《のリハーサル中という設定なので、 順上同ながらアイーダの吊場面がふんだんに現れ、間近に見る舞台の迫力も充分である。北京映画祭銀賞を始め、多くの賞も受賞しており、オペラ・ファンには一見をお勧めしたい。 (2001/7)

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26.二つの源氏物語

ここ1年の間に二つの「源氏物語」を観た。一つは「世界劇」 と称されるもので、昨年(2000年)暮れに東京国際フォーラム大ホールで催された。もう一つは、 先日(2001年9月20日)日生ホールで催されたオペラ「源氏物語」である。
前者の「世界劇」は、なかにし礼の総プロデュースにより、芝居と台詞は有吊スター(市川団十郎、 市川新之助、佐久間良子、宮沢りえ、松坂慶子、草笛光子等)が演じ、歌は一流のオペラ歌手(福島明也、 錦織健、中丸三千絵、澤畑恵美、永井和子、足立さつき等)が歌うという豪華版であった。甲斐正人作曲の 音楽は、可もなく上可もなかったが、スターも歌手もそれぞれ好演で、世紀末大晦日の催しとしては それなりに楽しかった。しかし、劇やオペラを催すのには5000人収容の会場は、あまりにも大き過ぎた。 歌手はマイクの前で歌ったが、ミキシングの失敗か、歌手の上慣れのせいか判らないが、 天井の大スピーカーから破鐘のような大音響を浴びせられたのには辟易した。2000〜3000人収容の大劇場 でのオペラ公演の際、後部座席では音量上足を感じることも多いので、将来、オプション的に高性能 スピーカー(或いはイヤフォン)を補助的に利用することの可能性を否定するものではないが、 少なくともこの公演では生の声のよさを再認識した次第である。
一方、三木稔作曲、日本初演のオペラ「源氏物語」は、昨年(2000)米国セントルイス・オペラ劇場開場 25周年記念公演の委嘱作品として、初演されたものである。三木稔は、「じょうるり(17世紀)」、 「くさびら(15世紀)《等日本の歴史に沿ったオペラ連作を試みているが、今回の「源氏物語 (10〜11世紀)」もその一環の作品である。台本・演出は、セントルイス・オペラ劇場の芸術監督である コリン・グレアムが担当したが、膨大な物語の一部(前半)を要領よくまとめ、理解しやすくなっている。 音楽は、オーソドックスというか、合唱やアリアが随所にはめ込まれた伝統的なオペラ形式を 採っているが、初めて聴くせいか強く印象に残る部分が少なかった。演奏は、オーケストラ(スチュアート ・ベッドフォード指揮、東フィル)に中国琵琶、琴(二十弦及び七弦)を効果的に配した編成であり、 雅と共に緊迫感が巧みに表現された。また、音を抑え、歌手の声を引き立てる配慮が感じられた。歌手は、 セントルイスオペラ劇場のメンバーが中心であるが、総体的にかなり高い水準にあった。また、今公演は、 字幕付き(字が大きく見やすかった)で英語で歌われたが、意外に抵抗感はなかった。しかし、雅楽、 舞楽を加えた「グランドオペラ版」も構想中ということなので、機会があれば再度「日本語版」で聴き直し てみたい。舞台は、朝倉摂の素晴らしい絵(可動パネル)だけの簡素なものであったが、衣装とその着こなしも見事で、 視覚的には十分堪能することができた。(2001/09)

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27. 無料オルガンコンサート

オルガンの響き、特にその重厚な低音は、心にしみ込み、 精神的な安らぎを与えてくれる。ギリシャ正教を除くキリスト教の教会がこれを常備しているのも納得できる。 個人的な経験でも、初めての米国出張時に訪れたスタンフォード大学構内の教会で聴いた重厚なオルガン、初めてのヨーロッパ観光旅行の際にセント・ ポール寺院で聴いた荘厳なオルガン、ドイツの工業都市エッセンの小さな教会で聴いた鄙びたオルガンの響きなどが心に残っている。わが国でも近年、 「バブル経済」の副産物と言えるかもしれないが、欧州から輸入した立派なパイプオルガンを備えたコンサートホールが全国各地に建設され、 一般音楽ファンが各種オルガンの音色を楽しむことが出来るようになった。東京では、サントリー・ホール(第2又は第3木曜日、オーストリアのリーガー社製)、 カザルス・ホール(第2火曜日、ドイツのユルゲン・アーレント製)、東京芸術劇場(奇数月の第3木曜日、フランスのマルク・ガルニエ製x回転式2面: 1面はモダンタイプ(A=442Hz)、他面はルネッサンスタイプ(A=467Hz)及びバロックタイプ(A=415Hz)組込み)等 いくつかのホールでは、月1回程度ではあるがランチタイム(12:15〜12:45)に無料(カザルス・ホールは\100以上)のコンサートを開催してくれている。 いずれも短時間(30分程度)の演奏ではあるが、一流の演奏を気楽に聴けるのは大変ありがたい。 別項で述べた旧奏楽堂や一部の教会 (神田キリスト教会等)でもやはり無料のコンサートが開催されている。 また、今年に入ってこれまでオルガンが設置されていなかった 東京文化会館が16個の大スピーカを付属したローランド社製の立派な電子オルガンを購入し、これを記念して先日素晴らしい無料コンサート開催してくれた。 ここでも他のホールのように、定期的に(出来れば45〜60分程度の)無料コンサートを実施してくれるとありがたい。
なお、オルガン以外でも、我が家から徒歩で10分程度のところにある「トッパン・ホール《の新人デビュー・コンサート(月一回程度)や芸大奏楽堂の 「モーニング・コンサート」などの無料コンサートがあり、ウォーキングの途中 などに有難く利用させていただいている。   (2002年5月)

追記 I(2003.12.12): 東京オペラシティコンサートホールでも今年の6月から、「ヴィジュアル・オルガンコンサート」と銘打った 無料のオルガン・コンサート(1回/月、11:45から12:30)が始められた。これは、通常、後姿しか見えないオルガニストを横から TVカメラで撮り、スクリーンに映してくれるサービス付きのもので、しかも演奏時間が45分あるのでありがたい。オルガンは、 クーン社(スイス)製のものである。

追記U(2007.11.24) : カザルスホールは、2002年から日大の所有となり、ランチタイム・コンサートが中断された期間もあったが、 昨夏から低額(\500)ながら有料コンサートとなった。有料化に伴って演奏時間も約1時間に延長され、さらに古楽器や声楽との共演 など内容がバラエティーに富み、大変充実したものとなった。
なお、オルガンではないが、2-3年前に始まった神楽坂の理科大裏に ある「アグネスホテル東京」地下ホールで無料のランチタイム・コンサート が行われていることを1年ほど前に知り、以後数回でかけてみたたが、出演者、ホールの雰囲気とも大変素晴らしかった。自宅からか なり近いところでもあるので、今後も時々出かけることを楽しみにしている。

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28. 祝二期会創立50周年

私が最初に生で聴いたプロの男性歌手は、伊藤亘行(のぶゆき)氏である。これは、たまたま母校(四日市市立富田中学校)の校歌(当時)が在学中に制定され、 校歌の作曲者で地元出身の同氏が発表会の席で歌を披露してくれたためである。同氏は、当時(1950年頃)は「日本音楽コンクール」で一位(特賞) をとったばかりの時期であったが、講堂に響き渡った朗々とした声は今でも生々しく耳に残っている。この伊藤氏が「二期会」発足時の16人の中の一人 であったことは、最近知った。
逆算すると、オペラを見始めた大学生時代(1955-1959)には、「二期会《はまだ発足後間もなかったことになるが、外国オペラ団の公演を除けば、 何故か記憶に残っているオペラは皆「二期会《主催のものである。歌手も現在に比べると層の薄さは否めないが、多くの吊歌手を輩出しており、大橋国一のフィガロ、 伊藤京子のデスピーナ等記憶に残る吊演も多い。本格的なオペラハウスも無かったわが国において、また、経済的な支援も殆ど無い環境下において、 公演数は充分とはいえないが、半世紀にわたって質の高いオペラ公演を続けて来てくれたことにオペラ・ファンの一人として感謝するとともに、今後のさらなる発展を期待したい。
なお、今年は、この創立50周年を記念して、いくつかの特別公演が開催された。まず、5〜6月にかけて「30日連続演奏会《と銘打った壮大なコンサートが サントリーホール(小)で開催された。これらの内「名古屋木実」、「青戸知」、「福井敬/福島明也」、「腰越満美」及び「佐々木典子/伊原直子」 の5公演に出掛けたが、いずれも熱のこもった好演であった。また、殆どの公演で歌だけでなく司会者或いは歌手自身の「おしゃべり」が挿入されており、 これが大変面白く、歌手に対する親近感が増大した。 7〜8月には、長大な「ニュルンベルクのマイスタージンガー」公演があったが、多田羅迪夫、池田直樹、 大島幾雄、福井敬、佐々木典子、西川裕子等の実力者を並べた、きわめて高い水準の公演で、二期会の実力を再認識させられた。10月には、 「二期会オペラ研修所《が「二期会ニューウェーブオペラ劇場」に名称変更し、所属する若手歌手による「ポッペアの戴冠」の公演があった。古楽器が用いられ、 原曲に最も近いアラン・カーチス版の日本初演という意欲的なものであった。一部の歌手には上満が残ったが(10/5)、鈴木雅明の指揮(及びチェンバロ)による 「バッハ・コレギウム・ジャパン」の 響きが素晴らしく、「オペラの原点」の雰囲気を堪能することが出来た。 (2002.10.10)

29. 「追っかけ」

「追っかけ《というと一般には、アイドル歌手の熱狂的なファンの行動としていささか顰蹙を買う存在として認識されているようだが、とうとう66歳の自分が 「追っかけ」で外国(北京)にまで出掛けてしまった。我々夫婦で加入しているサイ・イェングアン(崔岩光)のファンクラブでは、これまでもサンディエゴでの 「魔笛」公演などで「オペラ鑑賞の旅」を実施しているが、今回(2002.11.10/12)日中国交正常化30周念記念行事の一つとして團伊玖磨の「ちゃんちき」 が北京で上演されたのに合わせて「オペラ”ちゃんちき”と中国の旅《が計画され、これに参加したものである。このツアー参加者22人は大半が初対面の人たち ばかりであったが、皆が「崔さん大好き人間」なので、たちまち親しくなり、話も弾んだ。4泊5日の旅の初日は、先ず上海に入ったが、 新空港から市内に入る浦東地区の高速道路は、片側4車線で街路樹も二重三重に?えられていた。さらに平行して建設中の超高速モノレールも完成間近であった。 旧市内にも3車線の高速道路が走っており、わずか5年前に見た上海との違いに度肝を抜かれた。「豫園」観光後、上海雑技団の妙技を楽しみ、 夕食には旬の上海蟹も味わった。また、ライトアップされた夜景の美しさも格別であった。 北京へ移動後、万里の長城、故宮博物院、明の十三陵などの吊所 (いずれも世界遺産)を回った後、いよいよ本命のオペラ「ちゃんちき(中国吊:荒山狐樂)」を市内の保利劇場で観た。このオペラは、団伊玖磨の中期の作品であるが、 ストリーは単純、音楽も親しみやすい。お目当ての崔岩光は、古狐が化けたおいらん姿の「美人《役であり、聴かせどころの余り多くない役ではあるが、 生前の団伊玖磨ご推奨の彼女の艶やかな演技と歌を楽しんだ。共演の勝部太、鵜木絵里、山口俊彦の歌、演技も素晴らしかった。また、幕がおりたのち、 楽屋口で舞台姿の彼女と記念撮影をして盛り上がった。公演前日には、彼女を囲んでの食事会もあり、短期間の旅であるにもかかわらず、 「追っかけオペラ鑑賞の旅」の楽しさを充分に味わうことができた。機会があればまた出掛けて見たい。 (2002.12.12)

追記T(2003.6.8):
「演奏会形式は、昨年の秋に横浜(みなとみらいホール)で聴いたし-----《、「SARSも一寸気持ち悪いし------」などと思いながらも、 「こんな機会でもなければフィンランド旅行はできないだろう」と自己紊得して、結局クオピオ市での「トゥーランドット公演」を核としたツアーにサイ・ イエングアン・ファンクラブの有志とともに出かけた。今回の参加者は、昨年の北京に比べると半減であったが、大半の参加者が顔なじみの人達であったため、 大家族旅行のような和やかな雰囲気の中で、大変楽しく過ごすことができた。 フィンランドの 森と湖の景観は抜群であり、食事もおいしかった。冬季には、 気温が零下30〜40℃にまで下がるという国であるが、われわれの滞在した5月下旬は、日中は15〜20℃の大変さわやかな気候であった。また、 白夜のシーズンが近く夏時間を採用しているため、遅い夕食中も太陽が高々と輝いているという不思議な体験もした。
ヘルシンキ市内観光後、公演地の中部フィンランドのクオピオ市に飛び、市内観光や音響効果の優れていることで有名なKuopio Music Centreの バックステージ・ツアーをした後、同センターでの公演に臨んだ。第一部では、Akihiro Yoshidaの和太鼓独演、サイの「愛する小鳥」独唱などがあり、 第二部で演奏会形式でオペラ「トゥーランドット」のハイライトが演奏された。オケの音量がやや大き過ぎた感もあったが、 フィンランドを代表するテノール (Raimo Sirkia)のカラフとサイ・イエングアンのトゥーランドットの掛け合いは、素晴らしかった。なお、この公演は、 今回リューを歌ったフィンランド在住の日本人ソプラノ(Chieko Okabe)の仲介で実現したとのことで、この人の父親の所属する成田市の合唱団も参加し、 国際親善の場としてもおおいに盛り上がった。

追記U(2005.12.15):
アテネ・オリンピックの影響で工事中であったギリシャの 新国立劇場の完成が1年近く遅れ、 これに伴いサイ・イエングアンの出演が予定されていた開場記念公演の「魔笛」も10 ヶ月も遅れて、やっと2005年12月に上演されることになった。ファンクラブでは恒例の 「鑑賞ツアー」が計画されたが、今回は「三越」が催行したこともあり、36名の 大応援団になった。個人的には、はじめて夫婦で参加できた。 今回のツアーは、主目的の「魔笛」鑑賞のほか、アテネ市内観光、 エーゲ海ミニクルーズを含む4泊6日の日程的にはかなりの 強行軍であったが、ホテルも五つ星で、ライトアップされたアクロポリス神殿を見上げる レストランでのサイさんを囲む夕食会も組み込まれ、中身の濃い大変楽しい旅であった。 今回「魔笛」が上演されたのは、1961席の大コンサートホール等を含む「メガロン・ムシキー (Megaron Mousikis)」と呼ばれる文化センターの一角にEU及びギリシャ政府の支援で新たに 建設され、往年のギリシャの名ソプラノに因んで名付けられた 「Alexandra Trianti Hall」 である。この座席数1750のホールは、主要部分が地下 に建設されているのが特長である。また、多目的利用が可能なように各椅子の肘掛の下には小テーブル、 マイク、投票ボタン等が組み込まれているが、標準的なオペラハウス同様、4面舞台 を持ったプロセニアム形式が採用されており、舞台転換は全てコンピュータ制御となっている。 外装やロビーのには白大理石がふんだんに用いられた大変豪華なものである。 今公演には、来日公演歴もあるReinhard Hagen(独、ザラストロ)、Wolfganng Schoene (独、弁者)、Rainer Trost(独、タミーノ)、ヨーロッパを中心に活躍している Rachel Harnisch(スイス、パミーナ)などドイツ語圏諸国中心の一流歌手が出演し、 水準の高い公演であった。男声陣では、弁者を歌ったSchoeneの重厚な声が特に印象に残った。 東洋からは、サイ・イエングアン1人が招聘された。彼女の役は、勿論、十八番の「夜の女王」 であり、ひときわ大きな喝采を浴びた。15回の今公演中11回に及ぶ彼女の出演で声価がいっそう高まり、「魔笛」以外の役 (「椿姫」や「蝶々夫人」など)で欧米大劇場への進出が実現することを期待したい。 一方、演出は、1998年及び2000年の新国立劇場公演と同じミヒャエル・ハンペが担当したため これらの公演と共通するものが多かったが、背面の大スクリーンを上手く活用し、小道具を最小限に した大変すっきりしたものであった。

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30. 「伝説のピアニスト・原智恵子《

先日、TVの「世界・ふしぎ発見!」という番組で2年ほど前に亡くなった名ピアニスト 原智恵子が取り上げられた。彼女は、国内よりは、 むしろ欧米での知名度が高かったピアニストであり、石川康子著の「原智恵子・伝説のピアニスト(ベスト新書)」には、 その数奇でひたむきな生涯が見事に綴られている。CDもコロンビアから現在2枚発売されている (DENON COCQ-83614「原智恵子*伝説のピアニスト」 DENON COCO-80744「GASPER CASSADO PLAYS ENCORES」 )。 このピアニストに関しては、自慢するほどのことではないが、実は個人的にもちょっとした「秘話」がある。1958年の春だったと思うが、著名なチェリスト、 ガスパール・カサドが「第一回大阪国際フェスティバル」に招かれて来日し、原智恵子の伴奏によるコンサートが催された。この演奏が大変素晴らしかったので、 その何日か後に催された京饗との協演にも出かけたところ、会場に原智恵子が現れ、たまたま私の斜め後方の席につき、熱心にカサドの演奏に聴き入った。 その真剣な眼差しを垣間見て直感的に、「この2人は結婚するな」と感じた。その後1年程して、大きな年齢差を越えた2人の結婚が報じられた。 予感が当たったこともあり、カサドと原智恵子には今でもなんとなく親しみを感じている。なお、カサドの演奏は、間近で聞いたせいも有り、若干雑音も多かったが、 音が大きく、雄大な音楽を造る人との印象を持った。
(追記:原 智恵子の生涯に関しては、2021年10月、冬花社から寺崎太二郎氏の労作「原 智恵子」が刊行された。)
ついでに古い話をすれば、丁度この頃、当時15歳前後の丸々とした可愛い少女だった名ヴァイオリニスト前橋汀子が、 「日本音楽コンクール」で第二位、特賞をとり、京都で「記念公演」が行なわれたが、ベートーベンのコンチェルトを実にゆったりとしたテンポで大きく歌い上げ、 現在の大成を予感させたことが印象に残っている。この場合も、彼女の父親とおぼしい人が近くの席におり、知人等の祝福を受けて、 大変うれしそうにされていたことを思い出した。(2004.3.12)


31. 学生オーケストラ

大学入学と同時に始めたヴァイオリンの独習を1〜2年で断念してしまった自分自身の経験からも、 器楽演奏の難しさを一応知っているだけに、学生オーケストラ特に一般大学のオケの演奏技術は、 それ程高くはないものと勝手に思いこみ、数年前までは殆ど聴く機会を持たなかったが、低料金の魅力もあって、 最近は聴く機会が多くなったが、プロの卵である音大オケの水準が高いのは当然としても、一般大学のオケもその幾つかは、 音大に劣らず高レベルの演奏技術を持っていることに正直驚いている。2002年1月にサントリーホールで聴いた 京大交響楽団や2003年2月に東京芸術劇場で聴いた欧州演奏旅行直前の早大交響楽団の壮行演奏会などは、 極めて高水準の演奏で印象に残っている。 一方、音大については、数年前から東京の音大8〜9校による「音楽大学 学生オーケストラの祭典」と銘打った4日間に わたるコンサートが東京文化会館で毎年秋に行われている。全て自由席なので少し早めに入場すれば、特等席でしかも \1,000以下で聴けるのは大変ありがたい。一流の指揮者(洗足音大の秋山和慶等)を戴き、十分な練習もしている ものと思われるが、プロのオケに準ずる立派な演奏を聴かせてくれる。演奏曲目もスタンダード・ナンバーのみならず、 今年(第6回)の武満徹の「ノヴェンバー・ステップス」等意欲的なプログラムも含まれている。時には、2校の合同演奏 で学生オケならではの迫力満点の演奏もある。2001年(第3回)の東邦音大と洗足学園大の合同によるチャイコフスキーの祝典序曲「1812年」は、 百数十人が舞台に上るとともに、金管の一部が一階客席の両サイドに並び、さらに5階席からはカリオンが鳴り響き、 本物の大砲こそなかったものの、まさに「ギネス級」の迫力であった。「無料オルガン・コンサート」 同様この「オーケストラの祭典」も音楽会の穴場の一つといえそうである。(2004.12.28)

追記T(2009.11.26):前述の「オーケストラの祭典」は、その後4〜5年間中断していたが、今年(2009年)になって「音楽大学オーケストラ・フェスティバル」 として復活した。今回が第1回と銘打たれ、来年度の予定(2010年11〜12月)も発表されているので、今後は毎年実施されるものと期待される。 なお、会場は、東京文化会館から東京芸術劇場及びミューザ川崎に変更になり、料金は、少し上がって指定席ながら均一で\1,000となった。


32. 特殊な楽器

メシアン作曲の「トゥランガリラ交響曲」は、鍵盤楽器でありながらビブラートがかかり、 ポルタメント奏法も可能で、独特の響きを持つ電子楽器「オンド・マルトノ」が活躍する 名曲である。筆者もエアチェックしたオーディオ・テープを何度も聴いていたが、 今年の夏(2005.6.27)にやっと実演に接することが出来た。 井上道義指揮下の都饗と原田節のオンド・マルトノという組合せの優れた演奏にも恵 まれ、実演ならではの迫力を堪能することが出来た。オンド・マルトノは、1928年 にフランス人のモーリス・マルトノが発明した初期の電子楽器であり、現代のシンセ サイザーやエレクトーンのような多彩な音は出ないが、哀愁を帯びた音色が捨てがた い。いずれにせよ音楽史に残る名曲に取り入れられている限り、この楽器が急にすた れることは考えらない。むしろ作曲もこなす原田節をはじめ多くの作曲家がこの楽器 のために作曲し、さらに名作が生み出されることを期待したい。

電子楽器の元祖は、「テルミン」といわれているが、たまたま昨年の6月(2004.6. 24)にこの楽器の実演に接することが出来た。テルミンは、ロシアの物理学者にして チェロの名手だったレフ・セルゲイヴィッチ・テルミンが発明、1921年に発表され た電子楽器であるが、この楽器には鍵盤や指板といった、音の高さを定める基準が存 在せず、楽器本体には手を触れないで演奏する唯一の楽器である。音色は、オンド・ マルトノに似ている。本体にはピッチとボリュームの為の2つのアンテナがあり、周 辺に微弱な電磁場が形成されている。奏者は、これらのアンテナの周りの空中で両手 を動かし、楽器と奏者の間に形成される静電容量の変化により音の高低及び強弱を電 子音として発信するという原理の楽器である。CD(Victor, VICP-61602)も出し ているやの雪の演奏は幽玄で素晴らしく、演奏はまるで手品を見ているようで あった。先日TV放映された「テルミン」というドキュメンタリー映画によると、かの レーニンやアインシュタインもこの楽器に興味を示し、演奏を試みたとのことである。 しかし耳と、訓練された正確な所作だけにたよる演奏技術の難しさもあり、歴史的な 意義は別として、将来も特殊楽器として生き延びうるかどうかは微妙である。

なお、次元は全く違うが「特殊な楽器」として強く印象に残っているのは、数年前中国長江 の「三峡下り」の後立寄った武漢の博物館に保存されていた「編鐘(へんしょう)」と呼ばれる 中国の古典楽器である。この楽器は、銅鐸に似た鐘を65個も備えた 巨大な楽器であり、数人がかりで演奏される。約2,500年前のものとは思えない良い 保存状態にも驚かされたが、複製品の編鐘で、復元された当時の音楽とともにベートベン の「第九」の一部を見事に演奏してくれたのにはさらに驚かされ、紀元前の中国の 文化水準の高さを再認識した。(2005.10.8記)

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33. モーツアルト生誕250周年と「熱狂の日《

15年前(1991年)にモーツアルト没後200年の記念行事が大々的に行われたばかりであるが、 今年は、生誕250周年記念のということで、さらに大々的な記念行事が実施され、今後にも 計画されているのは、日本モーツアルト協会の元会員でもある筆者にとっては、大変 うれしい。これまでにも、各所での1月27日の誕生日コンサートを始め、数多くのオール・ モーツアルト・コンサートが開催されているが、最大のイベントは、有楽町の 東京国際フォーラムの大小6つのホール及びその周辺で、5月の連休4日間(5/3-6)に わたって開催された「モーツアルトと仲間たち」という副題を持った 「熱狂の日」音楽祭2006であろう。午前中から深夜にいたるまで、例外を除いて 各々45分程度のコンサートではあったが、内外の一流アーチスト1,500吊を集め、 約200公演を組んだ壮大な音楽祭で、チケット販売数約16万枚、関連イベントを含める と入場者数は、50万人と報道されている。筆者も小ホールでのピアノ伴奏による 「コジ・ファン・トゥッテ」を観ようと思ったが、出遅れてチケットが入手できなかった ので、一応この音楽祭の雰囲気を知りたいと思い、大ホール(5,000席) での2公演を聴いた。一つは、たまたま「0才以上入場可」の公演ではあったが、 幼児の泣き声等の騒音が激しく、またPAも使用していなかったので、質の高い演奏ではあったが、 後部席には音がまともに届かず、一応覚悟はしていたが、残念ながら音楽を楽 しむという雰囲気ではなかった。もう一つは、最終公演の「レクイエム」であったが、 開演が21時45分でしかも「6才以上入場可」だったので、観客は大人ばかりであり、 後方の席にも声が届き、名曲の優れた演奏を堪能することができた。
オペラについても、彼の四大あるいは五大オペラとともに、「イドメネオ」、 「ティトの慈悲」のような上演機会の少ないオペラ・セリアが上演され、 さらに秋には、ビデオやCDでしか接したことのない珍しいオペラ「アポロンとヒアキントス」及び「劇場支配人」 (いずれも「モーツアルト劇場」主催)の上演が予定されているのが楽しみである。 一方、テレビ/ラジオのクラシック音楽関連のプログラムもモーツアルト一色の 感があるが、出色の番組は、NHK-TVでの「毎日モーツアルト」であろう。週5日毎回10分間の 短いプログラムであるが、一流の演奏家やモーツアルト好きの著名人のコメントも面白く、 また、本人の手紙などを引用してモーツアルトの生涯を紹介しながら、往年の名演奏家の 演奏を流すという趣向も興味深い。(2006.5.28記)

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TVZオペラ
「NHKイタリア歌劇団(イタオペ)は永久に上滅です《
堀野音楽工房
長谷川泰子ホ*ムページ