(4)イタリア声楽コンコルソ

このコンクールは、現在百歳を超え,なお審査委員長を勤める中川牧三氏が中心となって、1970年に発足したもので、現在は毎日新聞と日本イタリア協会が主催し、 文化庁、イタリア大使館、NHK等が後援している。前記の「日伊声楽コンコルソ」と名称も似ており紛らわしいためか「関西日伊」など呼ばれることもあるようだが、 日本のオペラ歌手の3大登竜門の一つとなっており、過去の大賞受賞者には、福井敬、堀内康雄、佐野成宏、高橋薫子、森麻季等の逸材が含まれている。 このコンクールの特徴は、予選が九州、大阪、東京の3箇所に別れ、二次予選が無く、本選が東京で行われることである。また、表彰対象が入賞者(1,2,3位) と入選者(本選出場者)という通常の形式をとらず、出場資格が26歳までのミラノ部門と、37歳までのシエナ部門とに分けて審査し、両部門の優勝者に「大賞」 が与えられる。大賞受賞者には、イタリア国立音楽院に授業料免除で推薦入学できる特典が与えられるとともに、留学資金になるように他のコンクールより高額の 200万円の賞金が授与されることである。大賞のほか、両部門を通して優れた人に対して、金賞(1〜2名)、テノール特賞(0〜1名)、及びイタリア大使杯(1名) が授与される。
今年度発足したピアノ部門のコンクール:「イタリアピアノコンコルソ(2003.12〜2004.1)」と本選の日時を合わせたためか、今回は予選と本選の間が6ヶ月 もあいてしまった声楽コンコルソの本選会が、1月12日東京オペラシティ・コンサートホールで行われたので、初めてこのコンクールに出かけた。両部門とも、 出場者はイタリアオペラのアリアを2曲ずつ歌ったが、いつものごとく、勝手に自己採点をしながら、聴かせてもらった。本選には、 10倍を超える難関の予選を突破して合計19名が残った。ミラノ部門は、7名(S:2, Ms:2, T:2, B:1)であったが、バリトンの松本光紘が予想通り、大賞を獲得した。 彼は、昨秋の「日本音楽コンクール」では惜しくも入選を逸したが、並外れて強靭な美声を持っているので、大成が期待される。シエナ部門は実力が伯仲した12名 (S:6, Ms:1, T:1, B:4)の激戦であったが、やはりバリトンで、優れた歌唱力を持つ藤田幸士が大賞を射止めた。 なお、今回はテノール特賞は該当者が無く、 金賞は横山靖代(S)、イタリア大使杯は高田恭子(S)が受賞した。個人的には、最も魅力的に思えた平川千志保(S)が受賞を逸したのは、少々残念であった。 (2004.1.14)

追記T:(2004年11月10日、毎日新聞 東京夕刊より抜粋):
「第35回イタリア声楽コンコルソ」本選会が3日、大阪市中央区のいずみホールで開かれた。 東京、大阪の予選を通過した17人が得意のアリアで競演。 審査の結果、ミラノ大賞に郷田明倫(25)=バリトン・武蔵野音大卒、シエナ大賞に村上敏明(32)=テノール・国立音大卒=が選ばれた。 他の各賞は次の通り。  ▽金賞:石上朋美(28)=ソプラノ・東京芸大大学院修了、庄智子(37)=同・上野学園大卒、原拓也(35)=テノール・島根大卒  ▽テノール特賞:川久保博史(37)=東京芸大大学院修了  ▽イタリア大使杯:伊藤和広(31)=バリトン・東邦音大卒 (2004.12.8)

追記U:
今年(2005)も都合で聴けなかったが、予選が6月24日〜7月3日、本選が7月3日に行われ、 下記の人たちが入賞した(「日本イタリア協会」のホームページによる)。
<ミラノ部門>
   ミラノ大賞:西村悟(T)、金賞:下川慶子(S)、イタリア大使杯:長島由佳(S)。
<シエナ部門>
   シエナ大賞:馬場崇(T)、金賞:林満理子(S)、ソプラノ特賞:佐藤 康子(S)。

追記V:
今年(2006)もまた都合で聴けなかった(東京予選:6月3-4日、本選:7月2日)。「日本イタリア協会」のホームページによると入賞者は、下記の通り。 <ミラノ部門>    ミラノ大賞 桝 貴志(Br)、ソプラノ特賞 藤谷 佳奈枝(S)、イタリア大使杯 加藤 太朗(T) <シエナ部門>    シエナ大賞 須藤 慎吾(Br)、 金賞:加藤 利幸(T)、大石 洋史(Br)、鍾 皓(Bs)、イタリア大使杯 笛田 博昭(T)(2006.9.4記)

追記W(第38回, 2007):
4年振りに、公開されている本選(2007.8.11)を聴くために会場の銀座ブロッサムホールに出かけた。 十数倍という予選を突破した17名(S:11, T:4, Br:1, Bs:1)が、本選に臨んだ。ミラノ部門(26歳以下)は、7名(S:6, T:1)、シエナ部門(35歳以下)は 10名(S:5, T:3, Bs:1)で競われた。他のコンクールの2次予選や本選で見かけた人も何人かいた。審査の結果、筆者の個人的な予想・期待とは、かなり異なったが
   ミラノ大賞:芹澤佳通(T)、シエナ大賞:鍾 皓(Bs)、テノール大賞:加藤利幸(T)、ソプラノ大賞:上田純子(S)、
   金賞:藤原海考(T)、谷原めぐみ(S)、平川千志保(S)、イタリア大使杯:竹下みず穂(S)となった。
ミラノ部門では、若々しい声の芹澤も良かったが、「コジ・ファン・トゥッテ」からの難しいアリアを見事に歌った岸七美子(S)が受賞を逸したのは残念であった。 シエナ部門では、声、歌唱力とも抜群の加藤利幸、平川千志穂が大賞を競うものと思った。また、受賞は逸したが、月野進(Br)、西岡慎介(T)、田邊清美(S)の美声 も印象に残った。(2007.8.12記)

追記X(第39回、2008):
今年も昨年同様「銀座ブロッサムホール」において本選会(2008.5.25)が開催された。 今年の特徴は、ミラノ部門(S: 3、T: 3、Br: 3)、シエナ部門(S: 2、T: 3、Br:2、Bs: 2)とも男声陣が優勢で、入賞者も全て男性であったことである。 ミラノ部門では、山本耕平(T)が「ミラノ大賞」、 シエナ部門では、森雅史(Bs)が「シエナ大賞」をとった。予定されていた「テノール特賞」及び「ソプラノ特賞」は、 該当者がいなかったため、急遽「バリトン特賞」が設けられ、「金賞」をとった大西宇宙(ミラノ部門、Br)及び塩入功司(シエナ部門、Br)が合わせて受賞した。 また、「イタリア大使杯」は吉見佳晃(ミラノ部門、T)が獲得した。
  ミラノ部門では、大西及び山本の声が大変魅力的であった。高梨英次郎(T)もよかった。3人のソプラノには、声、歌唱力、声量を兼ね備えた人がいなかった。 シエナ大賞をとった森雅史は、今年の3月の新国立劇場オペラ研修所の卒業公演でバリトン役の
フィガロを好演したが、今回は深々 としたバスの低音を響かせ、見事な歌唱であった。シエナ部門では、テノールの加藤利幸、ソプラノの田邊清美もなかなか良かった。(2008.5.25 記)

追記Y(第40回、2010):
今年度の本選会は、年が明けた2010年1月10日に「銀座ブロッサム」で行われたが、今回は、何故か出場者が例年の2倍の38名も いたことと第2回の「イタリアピアノコンコルソ」と同日開催であったため、結果発表と表彰式が終わったのは、21時30分直前であった。 やはり本選出場者数は、他の主要コンクール並みとはいわないが、両部門で合計20名以下にとどめていただきたい。 今年度は、名前を知っている出場者は、ごくわずかであったが、特にシエナ部門では大変素晴らしい歌手が多かった。また、 今回から「聴衆賞」が設けられた。審査の結果、《ミラノ部門》では、ミラノ大賞は、美声で声も身体も大きい又吉秀樹(T)、 金賞は、珍しく御茶ノ水女子大出身の竹下みず穂(S)、イタリア大使杯は声もよく抜群の歌唱力を披露した藤原未佳子(S)が獲得した。 《シエナ部門》では、大賞はバリトンの大石、メゾの太田、バスの三戸の3人から出るものと個人的には予想していたが、結果は 意外にも砂川直子(S)が獲得した。金賞は三戸大久(Bs)、聴衆賞は、大石洋史(Br)が獲得した。なお、賞は逸したがバリトンの 3人は皆素晴らしかった。
なお、毎年気になっていることではあるが、このコンクールの主催者は、毎日新聞社・日本イタリア協会となっているにもかかわらず、毎日新聞には、審査結果の速報は、 もとより、関連記事も一切出ないのは理解に苦しむ。同じく共催の「日本音楽コンクール」の扱いとの格差を是正してほしい。 (2010.1.11 記)

追記Z(第41回、2011):
ミラノ大賞:田中絵里加(S)、シエナ大賞:原田勇雅(Br)
金 賞(ミラノ):中村洋美(S)、金 賞(シエナ):高橋華子(Ms)、伊藤貴之(Bs)、乾ひろこ(S)
プレミオスペチャ−レ:仙藤恵子(S)、イタリア大使杯:阪元恵里(S)

追記[(第44回、2014年)
4年ぶりに「イタリア声楽コンコルソ」の本選(1月5日)を聴きに会場のイタリア文化会館へ出かけたが、午前中の催しの遅れのため、 大コンクールの運営としては信じがたい不手際で、開演が58分も遅れた。本選会ににはミラノ部門10名(S:4、Ms:1、T:5)、 シエナ部門19名(S:6、T:10、Br:3)、合計29人が出場したが、内15名がテノールだったのには少々驚かされた。また、女性 の出場者は11名と少なかったが、残念ながら傑出した人もいなかった。男性出場者も実力者は、シエナ部門に集中していた。
審査の結果、ミラノ大賞:後田翔平(T)、シエナ大賞:岡昭宏(Br)、金賞(いずれもシエナ部門):水野秀樹(T)、高畠伸吾(T) が獲得した。なお、審査待ちの時間帯の若手2人によるヴァイオリン演奏は、素晴らしかった。(2014.1.5 記)

追記\(第45回、2015年)

今年から従来のミラノ部門(26歳まで)、シエナ部門(37歳まで)に加えてプロフェッショナル部門 としてロイヤルティガー大賞が新設された。8月8日の本選には合計30名が出場した。内訳は、ミラノ部門は13名 (S:6、Ms:3、T:3、Bs:1)、シエナ部門は14名(S:5、T:7、Br:2)、ロイヤルティガー大賞部門は3名(T:3)で あったが、今年もテノールが大豊作であった。
ミラノ部門の大賞は、ソプラノの緒方麻紀あるいは横前奈緒が有力かと思ったが、バスの小野寺が獲得した。 シエナ部門では男声陣が圧倒的に素晴らしかった。小笠原の大賞は予想通りであったが、名大医学部出身と いう異色の本多の天与の美声も圧巻であった。ロイヤルティガー大賞部門の3人のテノール(46〜51歳)は、他部門 の若手に負けない素晴らしい歌唱を披露しただけに、該当者なしの結果は大変残念であった。(2015.8.8日 記)

ミラノ大賞:小野寺 光(BS)
シエナ大賞:小笠原 一規(T)
ロイヤルティガー大賞:該当者なし
イタリア大使杯:中川 恵美里(S)
金 賞:横前 奈緒(S)、鈴木 雅人(T)、小山 晃平(BR)
テノール特賞:本多 信明(T)

追記](第47回、2018年)

このコンクールは、福井敬、堀内康雄、森麻季、村上敏明等日本を代表する大歌手を輩出している大コンクールで ありながら、何故か会場や開催間隔がたびたび変動する。また、主催者に名を連ねている毎日新聞が、同じく主催 している「日本音楽コンクール」の場合と異なり、少なくとも関東版では、ほとんど報道しない。このため、 気が付いた時には終わっていたということが何度かあった。今回は、青葉台のフィリアホールで開催されることを ネット上で知り、1月8日の本選会に出かけた。 今回の出場者は、ミラノ部門(26歳まで)が 7名(S:2、Ms: 1、T:2、Br:2)、シエナ部門(36歳迄)が18名 (S:5、Ms:2、T:4、Br:7)、ロイヤルティガー部門(国際部門、年齢不問)が8名(S:2、Ms:1、T:4、Br:1)、 延べ33名(重複を除くと29名)であった。なお、ロイヤルティガー部門8名のうち4名が他部門出場者の重複出場 であったのには、違和感を持った。
審査の結果は、下記の通りであるが、ミラノ大賞の栗原及びシエナ大賞の井出は、ほぼ予想通りであった。しかし、 ロイヤルティガー大賞は、豊麗な美声を持つ宇多村と若手の栗原、五十嵐の争いかと思ったが、福祉が 獲得したのは少々意外であった。金賞は、前々回テノール特賞をとった超美声の持ち主で異色(名大医学部卒)の 本多信明、前回ロイヤルティガー大3位の浅原孝夫及び個人的には声に最も魅力を感じた宇多村仁美が獲得した。 獲得した。なお今回、京都市長賞及び京都府教育委員会教育長賞が新設された。 (2018.1.9 記)

ミラノ大賞:栗原峻希(Br)
シエナ大賞:井出壮志朗(Br)
ロイヤルティガー大賞:福士紗希(S)
金賞:本多信明(T)、浅原孝夫(T)及び宇多村仁美(S)
テノール特賞:渡辺康
イタリア大使杯:五十嵐彩香(Ms)
京都市長賞:辻村文江(S)
京都府教育委員会教育長賞:水野友貴(S)