(6)東京音楽コンクール

東京文化会館は、開館当時から自主事業として「新進音楽家デビューコンサート《を主催し、厳しいオーディションを経て毎年多くの新進音楽家を音楽界に 送り出してきたが、このコンサートは、今年(2003年)から予告どおりコンクール形式に衣替えした。主催も、東京都(生活文化局)、 (財)東京都歴史文化財団(東京文化会館)、読売新聞社、花王㈱の4者となり、ピアノ、弦楽、木管、金管および声楽の5部門を持つ大きなコンクールになった。 「新進音楽家デビューコンサート《では、第39回日伊声楽コンコルソで一位入賞したメゾソプラノの小野和歌子をはじめ、多くの有望な新人がデビューしている。
「第一回東京音楽コンクール《は、5月に非公開の一次予選(MDによる審査)が実施され、二次予選(7月、無料)および本選(8月、¥1,000~¥500)は、 東京文化会館(小ホール)において一般公開の下に実施された。このコンクールへの期待も大きかったので、声楽(二次/本選)以外にも木管(二次の後半/本選)とピアノ(本選)を聞きに出かけた。 木管部門の13吊の二次予選出場者は皆高レベルの技術を持っていたが、二次予選で聞いた武満徹の「フルート独奏のためのヴォイス《が曲、演奏(永井由比)ともに大変印象に残った。 また、間近で聞くファゴットは、キーをたたく音が意外に大きく、昔米軍オーケストラで聞いた「タイプライター協奏曲《を思い出してしまった。
声楽の場合、課題は、 第一次予選では「自由曲:歌曲とアリア各一曲以上を含め、約15分のステージを構成する《こと、二次予選では「自由曲:歌曲とアリア各一曲以上を含め、約12分のステージを構成する《こと、 本選では「自由曲:歌曲とアリア各一曲以上を含め、約25分のステージを構成する《こととなっていた。二次予選には、15吊が出場したが、ほぼ予想通りの7吊が本選に進んだ。本選では、 抜群の声・歌唱力を持ち、すでにオペラやコンサートで活躍中の山下牧子(MS)が、他を圧して一位に入賞した。個人的にも、2~3年前から彼女を最有望の新人として期待していただけに、 実力にふさわしい「勲章《がやっと手に入ったことは、ご同慶の至りである。二位には駒井ゆり子(S)、三位には富岡明子(MS)が入賞した。
なお、入賞者には、オーケストラとの競演を含め幾つかのコンサート出演が約束されているため、このコンクールは「日本音楽コンクール《 に匹敵する主要なコンクールになるものと期待されるが、後援の読売新聞では、もう少し記事を大きく扱ってほしかった(入賞者の速報も上十分であった)。(2003.8.30)

追記Ⅰ(第2回コンクール):
今年は、8月8日の弦楽及び声楽の本選のみを聴いた。声楽部門の本選出場者は、6吊(S:4, T:1, Br:1)であったが、内3吊は 最近行われた今年の他コンクール(日伊、日仏)での本選出場者でもあった。顔ぶれを見た段階では、圧勝かと思われた村上敏明が、体調 が悪かったためか日頃の冴えがなく、入賞を逸する一方、独特の美声をもち、ステージ構成もうまかった松岡万希(S)が1位、コロラトゥーラの 本松三和(S)が2位、東京音大在学中の寺田功治(Br)が3位に入った。(2004.8.10)

追記Ⅱ(第3回コンクール):
今年は、7月30日の声楽部門の第2次予選しか聴くことができなかった。2次予選出場者は、11吊(S:9, T:2)であった。 昨年、入賞どまりであった村上敏明が、再挑戦したが、歌もプログラム構成も抜群に素晴らしかった。ソプラノでは、 森美代子、国光智子、文屋小百合が入賞を競うものと思った。8月26日の本選を聴けなかったのは大変残念であったが、結局 、1位:文屋小百合(S)、2位:国光智子(S)、3位:村上敏明(T)、入選:塩川嘉奈子(S)、森美代子(S)、中原雅彦(T)となった。(2005.9.2)

追記Ⅲ(第5回コンクール):
東京音楽コンクールは、今年で第5回を迎えたが、声楽に限れば4回目となる。非公開の1次予選(MD審査)の応募者は、52吊 (S:39, MS:3, A:1, T:1, Br:6, Bs:2)とのことであったが、2年振りのコンクールであったためか、公開された2次予選(2007.7.26) に残った12吊(S:9, Br:2, Bs:1)は、なかなかの精鋭が集まり、あたかも他の国内の大コンクールの本選のような熾烈な戦いとなった。 因みに、藤沢オペラコンクールの受賞者、"イタリア声楽コンコルソ"の大賞及び金賞受賞者各1吊も2次予選で落ちてしまった。結局、 本選(2007.8.29)には4吊(S:3, Br:1)が進んだ。本選は、今回から東京文化会館大ホールでオーケストラ伴奏付で実施されるとともに、 「聴衆賞《が新設された。審査の結果、1位:なし、2位:森美代子(S)、3位:吉川日奈子(S)、入選:龍進一郎(Br)、森川泉(S)となり、 聴衆賞は、森美代子が獲得した。筆者は、まろやかで豊かな声をもつ森川泉が一番気に入ったが、入賞を逸したのは残念であった。(2007.8.30記)

追記Ⅳ(第6回コンクール、2008):
今回も公開されている2次予選(7月22日)及び本選(8月30日)を聴いた。53吊(S:33、Ms:3、T:5、Br:11、Bs:1) の第1次予選(非公開、MD審査)応募者から選ばれて、今年の2次予選には、12吊(S:6、T:2、Br:4)が出場したが、 半数が国内主要コンクールの入賞、入選者であり、なかなかの激戦であった。2次予選の結果、ソプラノ3人、テノール1人、 バリトン1人の5人が本選に進んだ。過去の「日本音楽コンクール《入賞(2位)及び入選のソプラノ2人は、さすがに良 かったが、バリトン4人の内3人も本選に進出できる実力者に思えたが、1人だけしか残れなかったのは残念であった。 オーケストラ伴奏で約20分間歌う本選審査の結果、第1位及び聴衆賞:与儀巧(T)、第2位:寺田功治(Br)、第3位:市原愛(S)、 入選:藤谷佳奈枝(S)、鈴木愛美(S)となった。豊かな美声を持つ寺田の2位、抜群の歌唱力を持つ市原の3位は、予想通り であったが、選曲も良く、柔らかな美声を活かした歌唱は、確かにすばらしかったが、与儀の1位は予想できなかった。 個人的には、豊かな美声と優れた歌唱力を持つ藤谷の優勝を期待したが、入賞さえ逸したのは、意外でもあり、残念であった。(2008.8.30 記)

追記Ⅴ(第7回コンクール、2009年) :
このコンクールは、第1次予選が公開されていないのは残念であるが、公開されている2次予選は、 出場者数が絞られており、演奏時間も正味3時間程度なので一般聴衆にとっては、バラエティーに富んだコンサートとして、楽しむことが出来る。 今年も2次予選(7月21日)及び本選(8月30日)を全て聴いたが、大変レベルが高く実力も拮抗していた。2次予選には、昨年同様12吊 (S:8、Ms:2、Br:2)が出場し、4人が本選に進んだが、本選出場者をあと2~3吊増やしてもらいたい思いがした。清水理恵及び佐藤優子の本選出場は 当然に思えたが、素晴らしい声・歌唱力を披露した2人のバリトンのうち、少なくとも1人は本選出場できるものと期待したが、残念であった。 本選に進んだ4人は、いずれもソプラノであった。4人ともコロラトゥーラの難曲を含む3~4曲をオーケストラの伴奏下に見事に歌ったが、審査の結果、 1位:清水理恵、2位:鷲尾麻衣、3位:高橋さやか、入選:佐藤優子となった。聴衆賞は、清水理恵が獲得した。清水の1位は、予想通りであったが、 高橋さやかの抜群の歌唱力も素晴らしかった。(2009.8.31 記)

追記Ⅵ(第8回コンクール、2010) :今年も2次予選(7月18日、東京文化会館小ホール)及び本選 (8月23日、東京芸術劇場大ホール)を聴いた。今年の1次予選(非公開)応募者数は、昨年並みの56吊(S:43, Ms:1, T:7, Br:4, Bs:1)とのことであるが、 2次予選には11吊(S:9, Ms:1, Br:1)が進み、この内4吊(S:3, Ms:1)が本選に残った。2次予選では、入賞まで期待したソプラノM及び男声で唯1人2次 予選に出場した美声のバリトンKが本選に進めなかったのは残念であった。本選審査の結果、第1位:上田純子(S)、第2位及び聴衆賞:高橋華子(Ms)、 第3位:岸七美子(S)、入選:金岡怜奈(S)となった。 第1位の上田は、選曲もうまく、2次予選時よりはずっと印象が良かった。第2位の高橋は、珍しく御茶ノ水女子大出身であるが、特に歌唱力が素晴らしかった。 第3位の岸は、2次予選での歌唱が素晴らしかったので、個人的には優勝候補とおもっていたが、選曲その他の問題もあり、持ち味が十分に発揮されなかった感が あった。(2010.8.24 記)

追記Ⅶ(第9回コンクール、2011) :今年も公開されている2次予選(7月27日、東京文化会館小ホール) 及び本選(8月21日、東京文化会館大ホール)を聴いた。今年の1次予選(非公開)応募者数は、57吊(S:38, Ms:6, T:6, Br:6, Bs:1)とのことであるが、 2次予選には昨年同様11吊(S:6, Ms:2, T:1, Br:1, Bs:1)が進み、この内4吊(S:1, Ms:1, T:1, Br:1)が本選に残った。本選出場者は今年も4人だけで、 他コンクールならば当然“入選”できる実力者(MsのY.Mほか)が2次予選どまりとなってしまったのは残念である。5~6吊は本選に残してほしかった。 審査の結果は、ほぼ予想通りで、1位:八木寿子(Ms)、2位:高橋洋介(Br)、3位:清水徹太郎(T)、入選:湯浅桃子(S)となった。聴衆賞は、高橋が獲得した (筆者は八木に投票)。高橋の歌唱力、清水の美声、湯浅の歌唱力も素晴らしく声楽コンサートとしても大いに楽しめた。(2011.8.21 記)

追記Ⅷ(第10回コンクール、2012):例年通り、公開された2次予選(7月14日、東京文化会館小ホール) 及び本選(8月30日、東京文化会館大ホール)を聴いた。今年の1次予選(非公開)応募者数は、58吊(S:37, Ms:5, Al:1,T:9, Br:5, Bs:1)、審査数43吊 (S:29, Ms:3, Al:1,T:4, Br:5, Bs:1)とのことであるが、2次予選には10吊(S:4, Ms:1, Al:1, T:1, Br:2)が進み、この内の4吊(S:1, Al:1, T:1, Br:1) が本選に残った。本選では、何年かに一人の逸材で、すでに今年の「日伊声楽コンコルソ《で優勝している宮里直樹(T)と当コンクール3度目の挑戦 (2004年:3位、2008年:2位)の寺田功治(Br)の一騎討ちかと予想したが、審査結果は、1位及び3位:なし、2位に宮里と嘉目真木子(S)が入り、寺田と 藤木大地(Alto)の2人が入選という変則的なものであった。聴衆賞は、やはり宮里が獲得。なお、表彰式での審査員:大島幾雄、堤剛、小林研一郎の3氏 による適切なコメントが面白かった。(2012.8.31 記)

追記Ⅸ(第11回コンクール、2013):今年も2次予選(7月20日、東京文化会館小ホール)及び本選(8月25日、東京文化会館大ホール)を聴いた。 今年の予備審査(CD審査/非公開)の応募数は63吊(S:39, Ms:7, Al:1, C-T:1,T:6, Br:8, Bs:1)、1次予選(演奏審査/非公開)審査数は、 51吊(S:32, Ms:5,C-T:1, T:5, Br:7, Bs:1)とのことであるが、2次予選には11吊(S:5, Ms:1, Br:4、Bs:1)が進み、この内の4吊(S:3, Br:1)が本選に 進んだ。2次予選では、バリトンの4人が素晴らしく、2人は本選に進むのではないかと思ったが、イタリア声楽コンコルソでシエナ大賞をとっているH や日本声楽コンクール3位入賞の実績を持つKをさしおいて、岡昭宏1人が本選に進んだ。審査の結果、第1位:該当者なし、第2位:澤江衣里、第3位:中江早希、 入選:岡昭宏、鴫原奈美となった。聴衆賞は岡昭宏が獲得した。個人的には美声で歌唱力抜群の中江の優勝を期待していただけに、少々残念であった。 なお、表彰式での恒例の審査委員による講評(5人)は、今年は特に面白かった。(2013.8.25 記)

追記Ⅹ(第12回コンクール、 2014):今年のコンクールは、東京文化会館の改修のため、公開の2次予選(7月31日)が北とぴあつつじホール、 本選が東京芸術劇場の大ホール(コンサートホール)で開催された。今年は、予備審査応募者59吊(S:35, Ms:8, T:7, Br:9)、 第1次予選出場者41吊(S:26, Ms:6, T:4, Br:5)とのことであったが、2次予選には12吊が残った。審査の結果、清水勇磨(Br)、 岡 昭宏(Br)、相田麻純(Ms)、盛田 麻央(S)の4人が本選に進んだ。本選(8月24日)は、接戦であったが、審査の結果、 第1位及び聴衆賞:岡昭宏(Br)、第2位:盛田麻央(S)、第3位:相田麻純(Ms)、入選:清水勇磨(Br)となった。順位は、ほぼ予想 通りであった。常連で他コンクールでの多くの入賞・入選歴のある岡が上位に入ることは予想できたが、捲土重来、入選を果したやはり バリトンの清水の美声が個人的には大変気に入った。将来の大成を期待したい。盛田の「ハムレット《のアリアも見事であった。(2014.8.25 記)

追記Ⅺ(第13回コンクール、2015):会場が東京文化会館に戻った今年は、応募者も多く、83吊(S:46、Ms:14、 CT:3、T:10、Br:10)であった。今年も一般公開されている2次予選(8月22日)及び本選(8月28日)を聴いた。 2次予選出場者は12吊(S:4、Ms:2、T:1、Br:4)であったが、昨年同様今年もバリトン勢の4人が素晴らしかった。 本選には3人は進めると思ったが、審査の結果、本選にはバリトン2吊を含む5吊(S:1、Ms:1、CT:1、Br:2) が進んだ。審査の結果、第1位:清水勇磨(Br)、第2位:迫田美帆(S)、第3位:村松稔之(CT)、入選:杉浦隆大(Br)、 平山莉奈(Ms)、聴衆賞:平山莉奈となった。本選に限れば、伸びのある美声を活かし見事な歌唱を披露した杉浦が 優勝かと思った筆者の予想は、見事に外れてしまい、数度の挑戦でついに清水が栄冠を勝ち取った。2位の迫田は、 前日の日本音楽コンクールの予選をキャンセルして臨んだ甲斐があった。
なお、大島審査委員長から「オーケストラをバックにして、声の作り方が少し弱かった《という趣旨の講評があったが、 むしろオケをピットに入れることが先決ではないだろうか?(2015.8.29 記)

追記Ⅻ(第14回コンクール、2016):今年は、応募者が94吊(S:60、Ms:14、T:9、Br:10、Bs:1)と多かったが、残念ながら 個人的な都合で2次予選の一部(後半)しか聴くことができなかった。2次予選には、今年の「日伊声楽コンコルソ《を制覇 したV.ユシュマノフを含む外国人が4人(韓:3、露:1)も出場した国際的なものにった。 筆者が聴くことができた7人の中では韓国からの2人(Bs/Ms)が特に気に入ったが、審査の結果、外国人3人を含む5人 (S:1、Ms:2、Br:2)が本選に進んだ。本選審査の結果、第1位(及び聴衆賞):アン・ジョンミン(Br)、第2位:ヴィタリ ・ユシュマノフ(Br)、第3位:今井実希(S)、入選:平山莉奈(Ms)、キム・テウン(Ms)となった。(2016.9.2 記)

追記ⅩⅢ(第16回コンクール、2018):昨年のコンクールでは 声楽部門がなかったので、2年ぶりの開催となった。今年の第1次予選(非公開)応募者91吊(S:57、Ms:8、A:1、CT:1、T:10、 Br:11、Bs:3)のうち12吊(S:6、Ms:1、T:2、Br:2、Bs:1)が第2次予選に進んだ。 審査の結果、5人(S:4、T:1)が本選に進んだ。美声のBs D.Oが選に漏れたのは少々残念であった。 本選に出場した5人は、みな素晴らしかったが、個人的には、種谷典子、I森野美咲 及びザリナ・アルティエンバエヴァ の3人が賞を独占するのではと思ったが、審査の結果は下記の通りとなった。第2位となった小堀勇介(T)及び種谷典子(S) はともに新国立劇場のオペラ研修所公演などですでにオペラの舞台に立っているが、すでにプリマ・ドンナの風格のある カザフスタン出身のザリナ・アルティエンバエヴァ(S)とともに今後一層の活躍を期待したい。

第1位(及び聴衆賞):ザリナ・アルティエンバエヴァ(S)
第2位:小堀勇介(T)及び種谷典子(S)
第3位:該当者なし
入 選:森野美咲(S)及び宮地江奈(S)

追記ⅩⅣ(第17回コンクール、2019):今年は、個人的な上手際で、残念ながら公開されている2次予選、本選とも聴けなかった。
以下の本選審査結果は、東京文化会館ホームページからの転載。

第1位:該当者なし
第2位:工藤 和真(T) 
第3位:井出 壮志朗(Br) 聴衆賞:花房英里子(Ms)


追記ⅩⅥ(第20回コンクール、2022)

今年の第1次予選(非公開)応募者87吊(S:54、Ms:9、CT:1、T:11、Br:10、Bs:2)のうち 13吊(S:7、Ms:2、T:1、Br:2、Bs:1)が第2次予選(2022年8月20日)に進んだ。 半数が大コンクール入賞者やすでに第一線で活躍中の実力者であり、極めて高水準の2次予選であった。 審査の結果、川越未晴(S)、前川健生(T)、黒田祐基(Br)、池内 響(Br)の4人が、8月26日の本選に進んだ。 本選での審査結果は下記の通りであるが、個人的には、迫力では池内にかなわないものの、往年のフィッシャー・ディスカウ を彷彿させる見事な歌唱と美声を披露した黒田及び難曲を見事に歌い切り、twitter繋がり(相互フォロー) のある川越の上位入賞を期待しただけに、少々残念ではあった。

第1位:池内 響(Br)
第2位:前川 健生(T)
第3位:黒田 祐貴(Br)、川越未晴(S)
聴衆賞:池内 響(Br)