(9)静岡国際オペラコンクール

このコンクールは、静岡県ゆかりのオペラ歌手三浦環をたたえて創設されたもので、 彼女の没後50年にあたる1996年に第1回が行われ、その後3年ごとに実施されている。 第1回から第3回までは、「国際オペラコンクール in SHIZUOKA」と呼称していた が、2003年にアジアで唯一の「国際音楽コンクール世界連盟」へ加盟(声楽部門) が実現したのを契機に今回(第4回)から 「静岡国際オペラコンクール」と名称変更した。 今年は、世界の35の国・地域から過去最高の365人(日本:126、韓国:106、 ロシア:38、中国:16、ブルガリア:12、台湾:9、米国:8、ドイツ:6、ポーランド:4、 イタリア、ウクライナ、セルビア、ハンガリー、モンゴル:各3ほか)の応募があった。 応募者は、カセット・テープ、MDによる事前審査により100名程度に絞られる。 今回は、18ヶ国1地域からの89名(日本:33、韓国:20、ロシア:15、中国:3、ブルガリア、 ウクライナ、ドイツ、ハンガリー:各2、台湾、米国、ポーランド、イタリア、モンゴル、 スペイン、グルジア、メキシコ、ノルウェーほか:各1)が1次予選に出場した。 国内の声楽関係の主要コンクールでは、「日本音楽コンクール」のように応募資格で 国籍を問わないものもあるが、「日伊声楽コンコルソ」や「イタリア声楽コンコルソ」 のように外国人は日本在住者に限定しているものもあるため、通常外国人の参加が非常 に少ないのに対して、このコンクールは、応募者の過半数が外国人で占められており、 まさに国際的であった。 審査委員会(委員長:伊藤京子)の構成も日本(6名)、イタリア(3名)、ドイツ(2名)、 中国、韓国(各1名)と多彩である。筆者は、たまたま日程が合ったので、九州で 行われたクラス会の帰路、会場(アクトシティ浜松)のある浜松に途中下車して一次 予選の初日(10月29日)を聴いた後、11月6日の本選にも、日帰りで出かけた。
このコンクールの第1次予選(ピアノ伴奏)では、応募時に登録した5曲のオペラアリ アの中から2曲を演奏する。1曲は、「第1次自選曲」として登録したもの、他の1曲 は、「選定曲」4曲の内から審査委員会が、当日指定するもの(合計10分以内)。 第2次予選(ピアノ伴奏)では、応募時に登録した「自選役」の中から、指定された 箇所を演奏する(合計約20分)。 本選(オーケストラ伴奏)では、オペラアリア2曲を演奏する。1曲は20、応募時に 「本選自選曲」として登録したもの(予選との重複不可)。他の1曲は、第1次予選の 選定曲のうち、演奏されていないものから審査委員会が指定するもの。
審査の結果、2次予選には30名が進んだ。国別では、韓国:10、ロシア:8、日本:6、 ドイツ:2、ベラルーシ、メキシコ、モンゴル、ハンガリー:各1、声種別では、S:14、 MS:3、T:3、Bs:2であった。 11月2-3日に実施された2次予選の結果、6名が本選に進んだ。国別では、(ロシア:2、 韓国、ハンガリー、ドイツ、ベラルーシ:各1)、声種別では、S:1、MS:1、 Br:2、Bs:2であった。一次予選に参加した89名の日本人の中には、「日本音楽 コンクール」2位(MS)、「東京音楽コンクール」1位(S)、「NHKニューイヤー・ オペラコンサート」出場者(S)のほか大舞台で活躍している若手歌手などの実力者も 多く含まれていたが、残念ながら全員予選落ちしてしまった。
最終審査の結果、第1位:Vasily V.Ladyuk(Br、ロシア)、第2位:Alexei Tanovitski (Bs、ベラルーシ)、第3位:Ekaterina Shcherbachenko(S、ロシア)が入り、 Tae-Joong Yang(Br、韓国)、Kinga Dobay(MS、ドイツ)及びBretz Gabor(Bs 、ハンガリー)が入選となった。また、三浦環賞(日本人としての最高位)には、高田 智宏(Br)が選ばれた。Ladyukは、1次予選でも聴くことができたが、天与の美声と 抜群の歌唱力で一次予選でも、ひときわ光っており、予想通りであった。第2位、第3位 もほぼ順当に思えた。
なお、このコンクールは、歴史は浅いが、レベルの高さ、組織・運営の見事さなど の点から間違いなく世界的な一流コンクールの一つに数えられるものと思われる。 次回コンクールでの日本人歌手の奮起を期待したい。(2005.11.7記)

追記T:11月の上旬に9日間にわたって第5回コンクールが開催された。今回はこのコンクール独特の2次予選を中心に聴きたかったが、高校の同窓会行事と重なって しまったこともあり、第2次予選の1日目と本選のみを聴いた。今回のコンクールでは33の国と地域より306名の応募があったが、予備審査の結果、15カ国91名が参加を承認 され、このうち12ヶ国76名(韓国:27、日本:24、中国:10、ロシア:6、ポーランド:2、クロアチア、スロバキア、フランス、英国、ブルガリア、オーストラリア、ドイツ:各1) が第1次予選(11月1-3日)に出場した。声種別では、S:45、Ms:6、T:12、Br:9、Bs:4であった。今回も国際コンクールらしく、出場者の70%近くが外国人であった。 1次予選出場の日本人歌手の中には、数年前の「日本音楽コンクール」優勝者を始めオペラの舞台や他の声楽コンクールで聴いたことのある実力者が何人か見受けられた。 第1次予選の結果、第2次予選(11月5-6日)には21名(日本:9、韓国:7、ロシア:2、中国:2、ブルガリア:1)が進んだ。声種別では、S:15 、Ms:1、T:4、Br:1 であった。このコンクールの2次予選の特長は、応募者自身が事前申告した「自選役(今回は、36のオペラ作品からの64役柄)」の中から1次予選終了後に審査委員に よって指定された箇所を合計約20分間歌う(重唱部分の場合は、相手役の部分を伴奏ピアニストが小声で歌ったり、語ったりする)ものである。2次予選出場者は、さすがに 予備審査を含めると十数倍の関門をくぐり抜けてきた人達だけに皆美声と水準以上の歌唱力を持ち合わせており、激戦であった。審査の結果、5日の出場者からは2名、6日の 出場者からは、4名、合計6名(S:4、T:1、Br:1)が9日の本選に進んだが、6名中5名が、韓国人歌手だったのには、驚かされた。日本人歌手もやっと1人入った。 本選には進めなかった1日目の出場者の中では、豊かな美声のソプラノ SEO Sun Young(韓国)及び抜群の歌唱力を持つソプラノ RADNEVA Antonia Maria(ブルガリア)が特に印象に残った。 本選は、オーケストラ伴奏で行われたが、審査の結果、第1位:光岡暁恵(S)、第2位:イ ヘジョン(S)、第3位:キム ナミョン(S)、入選:チン ソンウォン(T)、 チョン ビョングオン(Br)、キム ウンエ(S)となった。 なお、三浦環賞及び今回から設けられたオーディエンス賞も光岡暁恵があわせて受賞した。チューリッヒのオペラハウス等で活躍中という彼女は、「日伊声楽コンコルソ」 での入賞歴もあるが、このコンクールで日本人初の優勝者(1位なしの2位には、第1回コンクールの大岩千穂がいる)となったのはご同慶の至りである。 声の硬さが若干気になる部分もあったが、声量もあり、アジリタの技巧も見事であった。一方、声、歌唱力ともに素晴らしかったバリトンのチョン ビョグオンにも入賞を期待したが、 入選どまりとなったのは残念であった。 なお、今回からこのコンクールの運営が「静岡文化芸術大学」に委託されたとのことであるが、第1次予選以降の全ての演奏の映像及び音声が翌日には、公式ホームページの 「ストリーミング特設サイト」で配信されたのは、大変素晴らしい企画であり、感心した。(2008.11.10 記)

追記U:第6回のコンクールが、いつものアクトシティ浜松 大ホールで行われたが、今回は、2次予選のみ聴いた。 今回の応募者は、世界15の国と地域からの177名であり、予備審査を通過した82名(日:34、韓:33、中:5、露:4、その他:6)が11月 12〜14日の第1次予選に出場した。この内19名(韓国:9、日本:7&sup*、ロシア:2、中国:1)が11月16、17日の第2次予選に進 んだ。声種別では、声種別では、S:13 、T:1、Br:4、Bs:1 であった。16日聴いた10名の中では、美声で歌唱力抜群の宮田珠江が 一番気に入ったが、声量不足のためか本選に残れなかったのは残念である。韓国のバリトンも素晴らしかった。中国のバリトン も高音部の響きが良かったが、あと数分のところで何故か歌うのをやめてしまった。17日は、出場者8名は全員がソプラノであり、その内の5名 (日韓各2名、ロシア1名)がミミ役を歌った。ロシア及び韓国(2人)の歌手が素晴らしかっただけに、日本の2人(高橋、谷原) が本選に進めるかどうかが多少心配であったが、声量豊かな高橋絵理が韓国の2人とともに本選に進んだ。ドンナ・アンナ役を 歌った吉田珠代は大変素晴らしかった。結局、11月20日の本選に進んだのは、前回同様韓国勢が優勢で、ソプラノ、バリトン各2名 日本の高橋と吉田の合計6名であった。本選の結果は、同コンクールのホームページ によると、第1位:該当者なし、第2位:吉田珠代(s)、第3位:イム チャンハン(韓国、Br)及び高橋絵理(S)となった。また、三浦 環特別賞は吉田珠代、オーディエンス賞は高橋絵理が獲得した。(2011.11.20 記)

追記V:今年(2014年)の11月に開催された第7回コンクールにも前回同様第2次予選(11月12〜13日)を聴きに浜松まで出かけた。 今回のコンクールには、世界27ヶ国と地域から242名が応募し、66名が予備審査を通過して一次予選の参加資格を得た。しかし、辞退者 が17名(中国:8、日本:4、韓国:2、その他:3)もあり、実際に出場したのは49名(日本:28名、韓国:14、中国:2、その他:5) であった。審査の結果、このうちの18名(韓国:8、日本:7、中国、英国、カザフスタン:各1)が2次予選に進んだ。第1日目出場の12名 は、高音が苦しかった韓国のテノール1人を除いて、接戦であったが、リゴレットを歌った韓国のバリトンが豊かな美声で一番印象に残った。 2日目の6名のうちでは、カザフスタンから参加したソプラノの美声と見事な歌唱が光っていた。審査の結果、6名(日本:4、韓国:1、カザフスタン:1) が本選(11月16日)に進んだ。審査の結果、第1位(及びオーディエンス賞):鴫原奈美(ソプラノ、日本)、第2位:ユン・ギフン(バリトン、韓国)、 第3位:アナスタシア・コージュハロバ(ソプラノ、カザフスタン)となり、」三浦環特別賞は小堀勇介(テノール)が獲得した。 昨年の東京音楽コンクールでも入選している鴫原の優勝は、少々意外であったが、2次予選の歌唱も確かに立派であった。 なお、今回のコンクールは、一次予選から本選まで全てyoutubeで実況中継された。(2014.11.18 記)

追記W:第8回の今年(2017年)のコンクールから、正式の英語呼称が「Shizuoka International Opera Competition 」から 「Mt.Fuji International Opera Competition of Shizuoka」に変わった。このコンクールに出かけたのは、今回で 5回目であるが、これまでの4回はいずれも2日にわたる2次予選であった。今回は、個人的な都合で本選のみ聴いた。 今回のコンクールには、22の国(または地域)から191名が応募した。予備審査、第1次予選の結果、21名(声種別 ではS:7、T:8、Br:3、BsBr:1、Bs:2、国別では韓国:10、日本:6、中国:4、フランス:1)が11月15,16日 の2次試験に進んだ。審査の結果、11月19日の本選には、珍しく男声のみの6名(T:3、Br:1、BsBr:1、Bs:1、 韓:3、日:2、中:1)が進んだ。個人的には、入賞を期待していた日本人ソプラノ:TNが本選に残れなかったのは 残念であった。審査の結果、第1位:ムン・セフン(T、韓国)、第2位:リ・アオ(BsBr:中国)、第3位:コ・ピョン ジュン(Br、韓国)となり、2人の日本人テノール(城 宏憲/小堀 勇介)が入賞を逸したのは残念ではあったが、想定内 の結果でもあった。また、三浦環特別賞は城 宏憲、オーディエンス賞はコ・ピョンジュンが獲得した。 なお、審査委員の中に今回も、1959年のNHK「イタリア・オペラ」で来日し、「オテロ」でかのマリオデル・モナコ と共演したガブリエッラ・トゥッチの元気な姿を見かけたが、 大阪フェスティバル・ホールでの名演を思い出し、懐 かしく思った。(2017.11.21 記)

追記X:6年ぶりに今年(2023年)の10月から11月にかけて開催された第9回コンクールには、 残念ながら家庭の事情で聴きに行けなかったが、主催者のHPによると下記のとおりである。

応募者は271名であったが、予備審査を経て11ヶ国60名の一次予選参加が決定し、51名が出場した。さらに2次予選には16名、本選には6名が進んだ。 審査の結果は、下記の通り韓国勢の圧勝であった。

第1位:パク・サムエル(Br)
第2位:パク・ジフン(T)
第3位:キム・ジャングレ・ノア(Br)
三浦環特別賞:山下裕賀(Ms)
オーディエンス賞:キム・ジャングレ・ノア(Br)