春日・後楽園駅前再開発問題
-----都市計画決定に関する情報公開請求の顛末-----

2009年6月12日、春日・後楽園駅前地区市街地再開発事業の都市計画が決定され告示されたことを覚えていらっしゃいますか?この記述は、 その計画における141mの超高層マンションの高さの決め手となった「事業採算上の根拠」に関する行政情報公開請求(2009.11.2) のいきさつと、その結果の「非公開」処分(同11.6)、それに対する「救済の申出」と「異議申立」(ともに2010.1.5)、そして「救済申出の棄却」 (同3.25)と「異議申立の棄却」(同4.20)までの経緯をみなさまと共有したいと考え、覚え書きとしてまとめたものです。

都市計画決定の前年、2008年7月の文京区都市計画説明会で、突然降って湧いた白山通りと言問通りの交差点の155m超高層マンション計画について、 周辺住民は非常に驚き、また環境影響や景観破壊、まちづくりとしての妥当性の点で危惧を覚え、翌8月に有志で 「文京区の環境を守る会」 (以下「守る会」)を結成しました。守る会はその後一貫して、「155mあるいは141m(2009年2月の都市計画説明会で変更)という周囲から 突出する高さの再開発を見直してほしい」と文京区や再開発準備組合に申し入れ続けてきました。

しかし区は「高さをこれ以下にすると採算面で事業が成り立たない」と主張し、それに対して「事業が成り立たない根拠として収支の見積 もりなど採算の概要を示してほしい」と申し入れると、「現在は計画が未定なので示せない」と返答し、「詳細でなく概要でもよいので示して ほしい」と言うと、「現段階は採算性を論じるときではなく、高さや容積などの大枠を決めるときなので示す必要はない」と返答し、「それな ら採算を根拠にこれ以上低くできないとは言えないはずだから、文京区のまちづくりとして相応しい高さを論じてほしい」と言うと、「できれ ば低くしたいが、この高さが採算上限度である」と返答するという、まったくの不毛な堂々巡りで都市計画決定まで来たのです。

その間、守る会は、風害、景観・眺望阻害、交通計画の問題点、容積率緩和条件の法的問題点等についても問い質しましたが、文書で申し入れたにも 拘わらずきちんとした回答がないままの問題もあります。しかし、区民として最も納得がいかないのは、都市計画説明会でも再開発準備組合との意見交換会 でも都市計画審議会でも、超高層建築物による環境悪化を懸念して低くしてほしいという意見が大半だったのに対して、老朽化や防災上の必要性などから 土地利用更新が必要という説明はあったものの、超高層再開発がよいという積極的な理由を示さず、超高層でなければならない理由としては採算性以外に 何もなく、採算面でこれより低くはできないとしながら、その根拠を示さないことです。これは社会常識としても理不尽であり、都市計画決定の手続きに おいては重大な瑕疵だと考えられます。

そこで、守る会会員のAが、個人として2009年11月2日に、「この高さがどうしても必要だという採算上の根拠」となる 行政情報の公開請求をしましたが、これに対して同11月6日付で請求した行政情報の不存在を理由とする非公開処分が通知されました。Aはこの 処分を不服として、非公開とされた決定を取消し請求した行政情報を公開することを求めて、2010年1月5日、、(1)「文京区情報公開条例」に基づく 「救済の申出」を「文京区情報公開及び個人情報保護審査会」に、(2)「行政不服審査法」に基づく 「異議申立」を区長に、それぞれ提出しました。

(1)の救済の申出に関しては、1月6日に審査会より、意見書と口頭意見陳述の希望を提出できる旨通知があり、Aは1月29日に 追加の意見書を提出し、口頭意見陳述希望を申立てましたが、意見陳述の機会は与えられないまま、2010年3月25日、区の非公開決定処分 を妥当とし、Aの申出を棄却する処理結果が通知されました。

この審査会事件(第49号事件)処理結果では、「実施機関(文京区)が事業採算の根拠に関する何らかの資料を保有していてしかるべきとも 考えられる」「実施機関が…事業採算性に関して…あたかもその内容を検証したかのようなニュアンスで説明していることから、…文書等による 情報の提供があった可能性も否定できない」「「実施機関が(都市計画)審議会において本件事業の採算性に言及したことの妥当性については疑問 が残る」としながらも、「行政情報が明らかに存在する、あるいは存在したとまでは断定できない」「(情報を)実施機関が当然に保有すべきもの であるとは言えない」「実施機関の説明に明らかな不合理な点は認められない」として、「当審査会は、当該情報の不存在を理由とする本件非公開 決定処分は妥当なものと認める」と結論しています。これは、疑わしいと認めながらもグレーゾーンの部分をすべて行政の言いなりに解釈し、区民 の知る権利に反する方向で処理しているということで、区民としては到底納得できません。

また、当初155mとしていたのは「当該地区の地域特性や周辺地域で実施された都市計画事業などを踏まえて、高さの上限と判断したものであるから、 それよりも低い高さとするための根拠となる情報は、都市計画決定手続き上は実施機関にとって必ずしも不可欠な情報であったとは言えない」 という審査会の判断理由には、明らかな事実誤認と矛盾があります。

まず事実誤認として、高さを下げてほしいと要求する区民が多かったためか、区は当初から一貫して上限より下限のことを問題にしていたという ことがあります。上限は既存の建物より高くはしないという程度でしたが、下限については155mより低くすると事業採算が成り立たないと説明し ており、それが本当なら141mに下げれば採算に合わないはずです。区の説明では、準備組合の努力で低くても採算が成り立つようにしたということ ですが、それができたということは、当初155mが限度とした根拠に元々「下げ代」があったか、さもなければ当初からぎりぎりだった採算がさらに 厳しくなり危うい事業になったということですから、いずれにしても141mとするための根拠は、不可欠でないどころか税投入を司る実施機関に とって都市計画決定上ますます重要な情報になるはずです。

また、情報公開条例第25条3項の財政援助団体の情報公開に関する区長の努力義務については、再開発準備組合に対して補助金等は支出していない ので区長に義務はないという判断ですが、現在補助金としての予算計上はなくても、今後事業組合を設立し事業主体となる予定の準備組合であり、 事業認可後は莫大な公費が投入される市街地再開発事業ですから、、準備組合が財政援助団体ではない と言い切れるのでしょうか。このような言い逃れまがいの理由で区長は努力を免れるのでしょうか。納税者としては非常に疑問を感じます。

なお、口頭意見陳述希望の有無を尋ねておきながら、その希望を却下し、何も通知しないまま救済申出を棄却するという審査会の区民に対する 冷遇に対して、意見陳述却下の理由を尋ねたところ、「条例第10条は審査会の調査手段として規定されたものであるから、必要がないと判断すれば 希望しても陳述を認めず、手続き規定がないので却下することもその理由も通知しない」という旨の返答がありました「審査会は、救済申出人から 口頭で意見を述べる機会を求められた場合、必要があると認めたときは、その機会を与えることができる」という上から区民を見下ろすような文言 もさることながら、条例を消極的に適用し、 区民が享受できる権利を奪い、与えることができる陳述の機会を与えない審査会のあり方にも大いに疑問を感じます。調査手段という審査会の事情 のみによる意見陳述ならば前もって希望を聞く必要はなく、陳述を求められた区民が審査会の希望に添うかどうか判断すればよいことです。条例制定 時の議会(区民の代表)にも問題はあったと思いますが、解釈と適用でいかようにも区民側に立てるのに立たない条例運用者の問題は大きいと感じます。

 (2)の異議申立に関しては、2010年4月20日付で棄却の決定書が区長より交付されました。この決定書は事実認識や 書き方に不明な点が多いので、改めて区に問い合わせて内容を解明する必要があると考えます。 しかし、高さの上限の判断根拠が事業採算性ではないとする点は(1)と同様に明らかに事実と異なる上、「都市計画説明会、審議会等で事業採算性 に言及した処分庁の発言を加味しても、これをもって本源情報の提供が準備組合から処分庁に対し、文書等の形で間違いなく行われたとまではいえま せん」と処分庁のトップである区長が他人事のように述べるのは、まったく無責任としか言いようがありません。情報提供が文書であったかどうか、 部下に確認すればわかることであり、あったのなら公開するべきであり、なかったのなら、重要な公的審議会できちんとした根拠がないのに事業採算性 に言及した部下の失態は上司である区長の責任です。確認もせずに区民の異議申立を棄却するなどということは行政の長として許されざることです。                                                   

 以上(2010.4.25、I&J 記)

≪追記≫

「都市計画決定に関する情報公開請求の顛末」その後
―――文京区情報公開制度運営に関する考察―――

 顛末記の最後に述べたように、今回の異議申し立て棄却の主な理由は、都市計画段階における高さの上限の判断根拠は事業採算性ではないということであるが、 これは一般的には正しいとしても、今回文京区が区民への説明において高さの上限を問題とせず、下限のみを論じ、その根拠として事業採算性に論究したこと からすると、事実認識と判断に大きな問題があったと考える。
 情報公開請求人は、区の説明における高さの下限の根拠とされた事業採算性に関する情報を求めているのであり、説明会で論じられもしなかった上限 の根拠が事業採算性であろうとなかろうと、今回の請求や異議申し立てとは全く無関係である。無関係な理由をもって請求資料を不存在とするのは、明らかに 論理のすり替えである。
  請求された情報の存否を判断するに際しては、処分庁にとってその情報が不可欠かどうかは関係ない。情報公開制度の運営に関しては、あくまで処分庁の 公的な説明に納得できない区民が、その説明の根拠となる情報を求めているという事実のみを考慮して、根拠が不存在ということがあり得るのか、根拠がある べきか、なくてもよいのか、「明らかに(または一時的に)存在していたとまでは言い切れない。」などという言い逃れが許されるかを判断してもらいたい。
このような趣旨で、2010年6月2日に異議申立人は「文京区情報公開制度及び個人情報保護制度運営審議会」に宛てて「情報公開制度の運営に関する疑問 と建議のお願い」を提出した。(添付1)
それに対し、6月10日、区広報課より上記のお願いを同審議会は受理しない旨の返答が口頭にてあった。
そこで6月11日に、「不受理の通知に関する申入書」として、上記の口頭での返答を第三者機関である審議会会長名の文書にていただきたい旨申し入れた。(添付2)
ところが、口頭での内容を文書にするだけなのに、2週間、3週間、1ヶ月たっても返答がなく、その間問い合わせてもいつも準備中。とうとう7月30日付けで、 審査会が個別具体的に審査する案件にあたる(情報公開制度運営上の問題ではない)として、審議会会長名ではなく広報課長名の非公文書で回答があった。(添付3)
しかし、これはれっきとした情報公開制度運営上の問題提起である。区民に説明した同じ行政庁(=処分庁)が、このような論理のすり替えで、その説明の 根拠情報を不存在と認定し、区民の情報公開請求を棄却することが許されるのでは、いかに条例、審査会、審議会と制度だけ整えても、処分庁の恣意的な判断 によりいかようにも情報公開の趣旨はねじ曲げられ、制度そのものが無意味になると考える。
この問題の根源は、処分を下した行政庁の職員が、行政不服審査法に基づく異議申し立ての審理をし、また第三者機関である情報公開制度運営審議会の窓口に もなっているという著しく公平性を欠いた制度そのものにあると言える。そのため、審議会に申し入れたにもかかわらず、審議会で判断されず、処分庁から返答 が来るなどという第三者機関の形骸化とも言えることが起こるのである。
折しも行政不服審査法の見直しが政府内で始まっていると聞くが、自治体の制度改革にも波及することを期待する。                

以上(2010.9.17 I&J記)

添付1:文京区情報公開制度の運営に関する疑問と建議のお願い(2010.6.2 記)
添付2:「建議のお願い」不受理の通知に関する申入書(2010.6.18 記)
添付3:「文京区情報公開制度の運営に関する疑問と建議のお願い」について(回答)(2010.7.30)