22文総総第73号

                               決    定

                             東京都文京区           号
                                              異議申立人
  
 異議申立人が平成22年1月5日付けで提起した行政情報非公開決定処分につい
ての異議申立てに対して、次のとおり決定します。

                                主      文   

  本件異議申立てを棄却する。

                理   由

 第1  異議申立ての趣旨及び理由

   1  異議申立ての趣旨
       本件異議申立ての趣旨は、処分庁が平成21年11月6日付けで異議申立人
      (以下「申立人」という。)に対してした行政情報非公開決定処分(以下「本件
        処分」という。)の取消しを求めるというものです。

    2 異議申立ての理由
      本件異議申立ての理由は、次のとおりであり、申立人はこれらの点から本件
     処分が違法又は不当であると主張しているものと解されます。

    (1) 処分庁は、春日・後楽園駅前地区第一種市街地再開発事業(以下「本件事
      業」という。)における都市計画決定に当たっての意見交換会、都市計画説明
      会及び都市計画審議会(以下「審議会」という。)において、本件事業の事業
      採算に具体的に踏み込んでおり、また、申立人との面談時においても、本件
      事業の事業採算に関する情報を再開発準備組合(以下「準備組合」という。)
      から明示されたことを認めているのであるから、本件事業における事業採算
      の根拠となる資料(以下「本件資料」という。)が一時的にせよ存在したはず
        であること。前回
     (2)上記のように準備組合から明示を受け、審議会で答弁し、都市計画決定と
       いう行政処分の根拠としたのであれば、処分庁は、本件資料を本件事業の計
       画が存続する限り当然に自ら保有すべきであること。
     (3)処分庁が本件資料を保有していないとすれば、文京区情報公開条例(平成
      12年3月文京区条例第4号。以下「情報公開条例」という。)第26条及び
       第27条に違反していること。
     (4)処分庁は、本件情報を都市計画決定の根拠としながら開示を拒否している
       のであり、矛盾していると同時に区民の知る権利を侵害していること。
     (5)審議会の審議時に存在した本件資料を非公開とすることは、情報公開条例
       第1条の趣旨に照らして著しく不当であること。
     (6)本件事業における都市計画に定める建築物の高さの制限は141mであり、
       周囲から突出し、周辺住民の環境を害する可能性が極めて高いため、条例第
      7条第3号の規定により、準備組合に関する情報といえども公開すべきであ
      ること。
     (7)準備組合は区の財政援助団体であり、区は、情報公開条例第25条第3項
        の規定により、当該準備祖合の情報提供を促すよう努めるべきであること。

  第2  当庁の認定事実及び判断

   1 認定事実
       当庁が調査したところ、次の事実が認められます。

    (1)処分庁は、平成20年7月31目及び同年8月3目に都市計画説明会を行
      っており、その際本件事業での建築物の高さの制限を155mと判断した旨
      の説明をしていること。
    (2)処分庁は、上記説明会等の中での近隣住民等からの要望を受け、本件事業
      の施行予定者である準備組合に対し、可能な限り建築物の高さの上限を下げ
      る旨の検討を要請していること。
    (3)処分庁は、平成21年2月2目に、141mの制限であれば、他の土地利
      用方針や市街地整備方針を実現しながら本件事業を実施できる旨の判断を準
      備組合から報告を受けていること。
    (4)処分庁は、平成21年2月21目、同月24目及び同年3月7目の都市計
      画説明会において、本件事業での建築物の高さの制限を141mと説明して
     いること。
   (5)審議会会長は、平成21年5月12目の審議会において、事業採算の審議
     をすることは、審議会の趣旨に反している旨の発言を行っていること。
   (6)本件事業における都市計画決定は、平成21年6月12目に行われ、当該
     計画における建築物の高さの制限は141mとなっていること。
    (7)平成21年11月6日付けで、処分庁は、本件処分を行ったこと。

2 判断

  (1)本件資料の存否について
    ア 申立人は、本件資料が一時的にせよ存在していたはずである旨主張して
     いるため、まずこの点について検討します。
    イ 第一種市街地再開発事業に関する都市計画は、公共施設の配置及び規模
     並びに建築物及び建築敷地の整備に開する計画を定めるもの(都市再開発
     法(昭和44年法律第38号。以下「再開発法」という。)第4条第1項)
     であり、この建築物の整備に開する計画は、市街地の空間の有効な利用、
     建築物相互間の開放性の確保及び建築物の利用者の利便を考慮して、建築
     物が都市計画上当該地区にふさわしい容積、建築面積、高さ、配列及び用
     途構成を備えた健全な高度利用形態となるように定めること(再開発法第
     4条2項第3号)とされています。
      一方、事業採算等の具体的な資金計画は、当該都市計画の決定がなされ
     た後、市街地再開発組合が事業計画において定めることとなります(再開
     発法第7条の11第1項及び第12条第1項)。
    ウ 本件についていえば、処分庁は、これら再開発法の諸規定に基づき、春
     日・後楽園駅前地区(以下「本件地区」という。)における建築物の高さに
     ついて、東京都都市再開発方針、文京区都市マスタープラン等の上位計画
     に沿って、本件地区の地域特性、文京区内の他周辺地域で実施された都市
     計画事業等を総合的に勘案し、155mが妥当であると判断しています。
      これに対し、141mという高さの制限は、上記認定事実(2)で述べたよ
     うに、処分庁が建築紛争を未然に防ぐ観点から、本件事業の施行予定者で
     ある準備組合に対し、可能な限り建築物の高さの限度を下げる旨の検討を
     要請したことにより、当該準備組合が判断し、処分庁に報告を行ったもの
     です。
     エ 以上から、処分庁が当初155mという建築物の高さの制限を定める際
      に、建築物の高低に係る事業採算性をその判断の根拠としていないことを
      考慮すれば、これよりも低い高さの根拠となる本件情報についてもまた、
      都市計画決定の手続上、処分庁にとって必ずしも不可欠なものであったと
      はいえず、都市計画説明会、審議会等で事業採算性に言及した処分庁の発
      言を加味しても、これをもって本件情報の提供が準備組合から処分庁に対
      し、文書等の形で間違いなく行われたとまではいえません。
     したがって、本件情報の処分庁にとっての必要性等を鑑みるに、本件資
      料が処分庁において明らかに存在し、又は一時的に存在していたとまで断
      定することはできないと解します。
    (2)本件資料の不存在の妥当性について
      ア 次に、申立人は、本件資料は、処分庁自らが保有すべきであり、仮に保
       有していないとすれば、情報公開条例第26条及び第27条に違反してい
       る旨主張しているため、この点について検討します。
      イ 上述したとおり、都市計画は、市街地の空間の有効な利用、建築物相互
       間の開放性の確保及び建築物の利用者の利便を考慮して、公共施設の配置
       及び規模並びに建築物及び建築敷地の整備に開する計画等を定めるもので
       あり、事業採算等の具体的な資金計画は、当該都市計画に沿って、事業計
       画で定めることとされています。
        また、都市計画審議会は、都市計画法(昭和43年法律第1 0 0号)第
       77条の2第1項の規定により、「この法律(都市計画法)によりその権限
       に属させられた事項を調査審議」し、文京区都市計画審議会条例(昭和5
       0年3月文京区条例第25号)第2条各号に掲げる事務を所掌することと
       なっていますが、上記再開発法の規定に基づく都市計画の性質及び認定事
       実(5)から、事業採算性については、審議会の調査審議の及ぶところではな
       いものであることは明らかです。
      ウ したがって、これらを勘案すると、都市計画決定の手続上、事業採算性
       は審査の対象とはならず、都市計画の根拠となるべきものでもないことか
       ら、本件資料を処分庁が当然に保有すべきものであるということはできま
       せん。
      エ なお、申立人は、処分庁が本件資料を保有していないとすれば、情報公
       開条例第26条及び27条に違反する旨の主張をしていますが、これらの
      規定は、実施機関が保有している行政情報の適正な管理及び公開請求をし
      ようとする者への利便性の考慮について定めているものです。
     したがって、本件資料については、上述したとおり処分庁に明らかに存
      在し、又は一時的に存在していたとまで断定できず、かつ、処分庁が当然
      に保有すべきものであるということもできないことから、当該規定の適用
      かおるものとはいえないため、申立人の主張は、その前提を欠き理由があ
      りません。
    (3)  その他主張について
      ア 申立人は、準備祖合は区の財政援助団体である旨主張しますが、過去処
       分庁において本件事業についての補助金等の予算は計上されておらず、ま
       た、その支出の事実も認められないため、準備組合が区の財政援助団体で
       ある根拠はなく、申立人の主張には理由がありません。`
      イ なお、本件処分における非公開の理由はあくまで文書の不存在であって、
       上記2異議申立ての理由(4)から(6)までの申立人の主張については、処分庁
       が本件資料を保有していることをその前提としており、上述したとおり、
       本件資料が処分庁に明らかに存在し、又は一時的に存在していたとまで断
       定できないことから、その前提を欠き理由かおりません。
    (4)  以上のとおり、本件処分は適法及び適正になされたものであり、本件異議
       申立ては理由かおりませんから、行政不服審査法第47条第2項の規定によ
       り、主文のとおり決定します。

           平成22年4月20目
                                      文京区長  成  渾  廣  修