小笠原(父島)の街路樹

品川ナンバーの車が走る小笠原群島は、れっきとした東京都の一部であるが、都心から1,000kmも離れており、 亜熱帯域に属するため、植生も全く異なっている。小笠原群島には、種子の漂着、人間による持ち込み等による 各種植物が繁茂しているが、ブナ科の植物は無い。また、小笠原群島は、およそ300万年前の海嶺の隆起によって 出現した島で、どの大陸ともつながったことが無い「海洋島」であるため、樹木についてもタコノキ、オガサワラビロウ、 ノヤシ、ムニンヒメツバキ等の固有種が多い。街路樹も下記のように風土に合った独特のものが多い。なお、父島の メインストリートである「湾岸通り」には、オガサワラビロウ、トックリヤシ、トックリヤシモドキ、 タイワンモクゲンジ、ホウオウボク、アレカヤシなどがにぎやかに混植されている。


アレカヤシ(Areca palm, Yellow butterfly palm等/Chrysalidocarpus lutescens

    

(大村地区にて)                            (農業センター付近にて)

  ヤシ科、クリサリドカルプス属の常緑高木。葉の落ちた痕が幹に残り、竹の節のように見えるので、「コガネタケヤシ (黄金竹椰子)」ともいわれる。観葉植物として栽培されるほか、垣根、防風林や街路樹として利用されている。また、いけばなの材料としても用いられる。


オガサワラビロウ(Chinese fan palm / Livistona chinensis var.boninensis

    

         (大村地区にて)          

ヤシ科、ビロウ属の常緑高木。小笠原の固有種であるオガサワラビロウは、むかしは屋根葺き用の材料として利用されたようだが、 現在でも、浜辺の休憩所の屋根などに利用されている。ビロウの葉の利用は、古くは「日本書紀」にも出ているようだ。


ココヤシ(Coconut palm /Cocos nucifera

(大村地区にて)

ヤシ科、ココヤシ属の常緑高木。高さが20〜30mになるヤシ類の代表で単にヤシともいう。ココヤシは、父島では、 街路樹や公園樹として広く用いられているが、亜熱帯ながら降雨量が比較的少ない小笠原群島には、必ずしも適していないのか、 結実が少なく、特に利用もされていないようだ。


シンノウヤシ(Pygmy date palm / Phoenix roebelinii

(交流センター付近にて)

ヤシ科、フェニックス属 の常緑低木。宮崎県の「県の木」としてよく知られている大型のカナリーヤシ(Canary Island date palm/Phoenix canariensis) とは異なり、アッサムからインドシナにかけての高地産の小型の椰子で、本体は数mになるが、鉢植えだと60cmくらいとと手頃なところから 室内装飾用としてよく利用されている。また、伊豆諸島などでも街路樹としても用いられており、 八丈島の八丈町では町の木にも指定されているとのことである。


タコノキ(Screw pine /Pandanus boninensis)

  (大村地区にて)                         (夜明山付近にて)

タコノキ科、タコノキ属の常緑高木。小笠原の固有種であるタコノキは、幹の下部から垂れる多数の支柱根がタコの足に似ていることから、 名付けられた。50個から100個の核果をつけたパインナップル形の集合果をつける。 果実の髄や種子を煮ると食用になり、種子から食用油をとることも出来るようである。長い葉は、乾燥させた後、民芸品の各種「タコノキ細工」に用いられている。琉球列島で多く見られるタコノキに酷似した アダンもタコノキ科に属する。


テリハボク (Alexandrian laurel / Calophyllum inophyllum )

       (清瀬地区にて)     

オトギリソウ科、テリハボク属の常緑高木。別名「タマナ」。葉はゴムノキに似ていて、大きく厚く、光沢がある。実は2-3cmの球状で、 海水に浮かんで分布を広げる。父島の海岸近くには、巨木となったテリハボクが多く見られる。沖縄では、主要な街路樹の一つである。


トックリヤシ (Bottle palm / Hyophorbe(Mascarena) lageniraulis)

       (大村地区にて)     

ヤシ科、トックリヤシ属の常緑低木。幹の基部が大きく膨らみ、上に行くにつれてほそくなり、文字通り徳利のような形をしており、ユーモラスであるが、樹高が3−4mどまりであるため、街路樹としてはあまり多く利用はされていない。


トックリヤシモドキ(Spindle palm / Hyophorbe(or Mascarena) verschffeltti)

       (大村地区にて)     

ヤシ科、トックリヤシ属の常緑高木の。成長が早く、樹高も6−8mになるので、街路樹としてもかなり広く用いられている。


ホウオウボク(Royal poinciana、Flame tree 等/Delonix regia)

       (大村地区にて)     

マメ科(又はジャケツイバラ科)、ホウオウボク属の半落葉高木。ネムノキに似た美しい2回羽状複葉と燃えるような鮮やかな朱赤の大きな総状花をもち、 「世界一美しい木」ともいわれる。また、傘状の樹形で、大きな葉をたくさんつけるので、熱帯各地に街路樹、緑陰樹として広く植えられている。 ホウオウボク(鳳凰木)は英名同様「カエンジュ」(火焔樹)ともいわれるが,ノウゼンカズラ科のカエンボク(火焔木)と紛らわしい。


ムニンデイコ (Coral tree / Erythrina boninensis)

       (扇浦海岸付近にて)     

マメ科、デイコ属の落葉高木。小笠原諸島では「ビーデビーデ」、省略形の「ビーデ」と呼ばれ親しまれている。小笠原では、3月に、葉(3出複葉) が伸び始めるのとほぼ同時に、きわめて鮮やかな濃い紅色の花を咲かせる。なお、ムニンデイコ(小笠原のデイコ)は、 小笠原諸島の固有種とされていたが、最近沖縄の県花となっているデイコ (Erythrina variegata)と同種とみなされているようである(「月間小笠原諸島」81号)。

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参考図書:小笠原野性生物研究会著、 「小笠原の植物・フィールドガイド」、風土社