「声」のあらすじ:
現代。ある女の寝室。女は、ベッドに臥している。そこに電話が鳴る。これは、間違い電話。またベルが鳴る。今度は混線。 リリリ-------。やっと彼からの電話がつながる。彼が別れ話を持ち出してきたのは、3日前。5年間も愛し合い、 いまも彼を深く愛しているのに。絶望と苦悩の3日間。彼の電話をひたすら待ちわびる日々。しかし彼女はそんな様子をおくびにも 見せない。電話の向こうでは、彼が彼女を心配しているらしい。元気よ、大丈夫。突然混線する。彼女はオペレータを呼び出し、 彼の電話番号を告げる。メイドが出たらしい。が、彼は居ない。どうやら外から電話してきたようだ。リリリ-------。彼からだ。 今度は駄目。もう虚勢なんか張っていられない。彼女は泣き、哀訴する。食事も喉を通らない。ひたすら貴方の電話を待っていたの。 あんまり苦しかったので睡眠薬をたくさん飲んだけれど死にきれなかった、とも告白する。また混線。 どうやら他人がいまの会話を盗み聞きしていたらしい。彼女は怒る。彼もむこうで怒っている様子。彼女は彼をなだめる。 彼女の口調から彼がうんざりしてきた様子がうかがえる。電話が突然切れる。リリリ------。彼の気分を害したことを詫びつつ彼女は、 電話線を自分の首に巻き付ける。貴方の声を巻いているの。今度マルセイユに行くことがあっても、 私達の思い出のホテルには泊まらないでね。そう?ありがとう。あなたっていい人、好きよ。女は電話を抱きしめながらベッドに横になる。大切な貴方、私は大丈夫だから、もう電話を切って、早く、早く----。女は息絶え、電話がころがり落ちる。 (音楽の友・別冊「オペラのすべて'86」より)

「哀れな水夫」のあらすじ:
一人の女性。彼女は水夫の夫が戻ってくるのを15年間も待ち続けている。夫が一財産抱えて帰還することを疑わない彼女は、 自らの経営する寂れた酒場の向かいに店を開いている夫の友人からのプロポーズを断る。父親の勧告にさえ動じない。 そして水夫が戻ってくる。彼はまず友人に会うことにする。彼はあまりにも変わり果てており、友人には彼だと分からない。 彼は妻の酒場に行き、あなたの夫はもうじき帰ってきますと告げ、一夜の宿を求める。彼はこんな話をする--- 「私と彼は野蛮な女王からの求愛を受けていたのです。あなたの御主人はそれを拒んだので、貧しい姿で戻ってくるでしょう。 しかし、私はそれを受け入れたので、贈り物として値段のつけようのない真珠のネックレスを貰いました」。そうして彼は眠りに落ちる。 妻はそっと部屋に忍び込み、ハンマーで夫を殺害する。そのネックレスによって夫の借金を返済し、 再び幸せな生活を送ることを夢見ながら-------。(東京室内歌劇場「公演案内」より)