<プロローグ>
春の公園。野外能楽堂の周りに人びとが集まっている。映画『セルセ』の撮影が行われるのだ。
監督が定時になったことを告げ、タイトルが能舞台の周りに掲げられる。
<第1部>
舞台上で目覚めた男が王冠を渡され、『セルセ』の主役セルセ王の役を与えられる。彼は能舞台
の中央に立つ木を見て歌い始める。公園にいた青年はセルセの弟アルサメーネに、彼の犬は従者
エルヴイ一口に、彼の恋人は舞台上で舞を踊る女性ロミルダに抜擢され、“セルセ・ワールドの
人物に変身してゆく。やがて出番を終えたロミルタ役の女性のもとに、アルサメーネ役の恋人が
花束を持って訪れる。ところが次にセルセ役の青年が、アルサメーネより大きな花束をロミルタ
に捧げる。彼の頭上には撮影のための小道具であるはずの王冠がまだ載せられている。錯綜し始
める現実と虚構……。
監督は、撮影中のアクシデントにより空白になったアリオダーテを代役として演じるうち、すっ
かり役にのめりこんでしまう。一方、遅れて公園にやってきたセルセ王役の青年の恋人は、映画
『セルセ』における王の、ロミルダへの心変わりを知り、『セルセ』における王の元恋人役アマ
ストレとなって、怒りのあまり素性を隠して王を追跡し始める。『セルセ』の世界を追われたア
ルサメーネ役の青年は、恋人の気持ちを確かめようと手紙を書き、愛犬エルヴイ一口に手紙を託
す。一方、彼の恋人が鏡を見ていると、鏡の中から「妹」を名乗る別人格アタランタが現れる。
彼女は助手の姿を借りた愛の神。そして、彼女もまた同じ青年、つまリアルサメーネ役の青年を
愛している。
<第2部>
花売り娘がやつて来る。実はエルヴイーロだ。アマストレは魔法をかけてエルヴイ一口を犬に戻
してしまう。花売り娘は次に助手に姿を変えたアタランタに呼び止められる。アタランタから、
ロミルダがもはや主人アルサメーネを愛していないと聞き、怒り狂うエルヴイ一口。アタランタ
はアルサメーネの手紙を奪う。そこへ神殿の中からセルセが現れ、王冠の力をもってしても自分
を愛してくれないロミルダへの苦悩を吐露する。助手アタランタはさりげなくセルセにアルサメ
ーネの手紙を見せる。セルセはロミルダにアルサメーネの不実を語り、自分を愛するよう言うが、
ロミルダはなびかない。次第に皆が映画『セルセ』の世界から逃れられなくなってゆく。
犬のエルヴイ一口は、アマストレが自殺しようとするので止めようとする。逆上したアマストレ
はエルヴイ一口に切りかかる。命からがら逃げ出したエルヴイ一口は、主人アルサメーネに再会
し、ロミルダの裏切りを話す。アタランタはアルサメーネへの自分の恋を成就させられない苦し
みにもがく。−方、アマストレは悪魔となる。さまざまな人間の怒りや憎しみが飽和状態になっ
たその時、津波が起こる。逃げ惑う人びと。狂ったセルセ。ロミルダの幻を見て近寄ると、アマ
ストレが近づいて来る。王は彼女を襲うよう家来に命じる。争いを止めに入るロミルダ…‥・。
セルセは女王の座に座ろうとしないロミルダをとらえ、結婚を無理強いする。苦し紛れに彼女は、
父の了解があれば結婚すると言ってしまう。そこヘアルサメーネが入ってくる。仲がこじれてし
まったロミルダとアルサメーネだが、やがて誤解は解ける。ロミルダを妻に迎えようと待つセル
セ。だがアリオダーテから、アルサメーネとロミルダが結ばれたことを聞き、神殿を自ら破壊し
てゆく。王の前に現れる人々。やがて愛の神アタランタが『セルセ』の終わりを告げる。
(公演プログラムより)