23文建審・請第3号

裁  決

上記審査請求人が平成24年2月13日付で提起した審査請求について、次のとおり裁決する。

主   文

 処分庁が、平成23年10月27日付確認済証第11EBCT0127号をもって建築主シマダアセットパートナ−ズ株式会社専務取締役佐藤 悌章にたいしてなした建築確認処分を取り消す。

理    由

第1 当事者の主張及び立証
1(1)審査請求人らは、主文同旨の裁決を求めた。
 (2)審査請求人らの主張は、平成24年2月13日付事業請求求書、同月28日付補正書(全2頁のもの)、同日付補正書(全13頁の もの)、同年3月8日付反論書兼補正書、同月16日付補正書4、同月23日付補正書5、同年4月6日付補正書6兼再反論書、同月16日補正書7 兼反論書、同月23日付参加人の「回答書」に対する意見書、同年5月9日付参加人の「意見書3」に対する意見書、同月11日付補正書8と して提出した書面及び平成24年3月27日に開催された口頭審査における陳述のとおりである。
 (3)審査請求人らは、甲第1号証ないし甲第9号証を提出した。
2(1)処分庁は、主位的に本件審査請求を却下するとの裁決を求め、予備的に本件審査請求の棄却を求めた。
 (2)処分庁の弁明は、平成24年2月27日付弁明書、同年3月22日付再弁明書、同年4月2日付補正書4に対する意見書、同日付口頭審査 の回答留保についてとして提出した書面及び同年3月27日に開催された口頭審査における陳述のとおりである。
  (3)処分庁は、乙第1号証ないし乙第6号証を提出した。
3(l)参加人は平成24年3月27日付意見書、同日付意見書2、同年4月9日付回答書、同月19日付意見書3、同年5月17日付意見書4、 同年5月18日付意見書5として提出された書面及び同年3月27日に開催された口頭審査において意見を述べた。
 (2)参加人は、丙第1号証を提出した。

第2 当審査会の判断
1(1)審査清求人らの主張は多岐に渡るが、まず、本件処分の対象となった建築計画における敷地が北東側の隣地より7メートル以上高い がけ(以下本件がけ」という。)上にあり、本件処分は建築基準法(以下「法」という。)第19条第4項及び東京都建築安全条例(以下 「安全条例」という。)第6条第2項ないし第4項に違反するから、本件処分は違法」である旨の主張について検討する。
(2)本件敷地周辺の現況実測図(高低)(甲第1の5号証)及び平成24年4月24日に行われた本件敷地の検証結果によれば事件がけの高さ、 すなわち本件敷地とその北東側の隣地には最大で7.5メ⊥トル程度の高低差があり、本件敷地は当該がけ上にあることが認められる。
 また、本件建築物は本件がけから水平距離ががけの高さの2倍以内に建築される計画であり、また本件がけが崖崩れ等をおこせば本件 建築物に被害が及ぶおそれがあることはあきらかである。
本件 したがって、本件建築計画におい法第19条第4項により、本件がけが崩れる等の事態が生じた場合には擁壁の設置その他適当な措置が 講じられていることが必要となるが、本件処分に係る建築計画においてはそのような事項について考慮がなされている記載が一切なく、 当該規定に適合しているとは認められない。
 また、安全条例第6条第2項によれば、高さ2メートルを超えるがけの下端からの水平距離ががけ高の2倍以内のところに建築物を建築する 場合には同条第2項各号のいずれかに該当しない限り高さ2メートルを超える擁壁を設けなければならないと規定されているが、本件建築 計画について、規定される擁壁が設けられる計画にはなっておらず、同条第2項各号に該当する事情があるかについての検討も行われていない。 すなわち、本件建築計画は、安全条例第6条第2項に適合しているとは認められない。
 このように、法第6条第1項の定める建築基準関係規定に適合することが確認することができない本件建築計画についてなされた本件処分は、 違法であるといわざるを得ない。
(3)このことについて、処分庁は、本件処分を行うに当たり、敷地の実情を実地に確認すべき義務はなく、申請書類の記載のみを審査すれ ば足りるのであって、本件建築確認申請書類に本件敷地北東側の隣地との高低差は1.9メートルとの記載がある以上、本件建築計画が安全条 例第6条第2項に違反するか否かを検討する必要はない旨主張する。
しかし、前記のとおりの建築基準関係規定に適合すると評価するべきでない本件建築計画こついてなされた本件処分は、処分庁において その職責を尽くしたかを評価するまでもなく、違法なものとして取り消されるべきものであり、処分庁の当該主張は本件処分に違法がない という主張の根拠とはなりえないものである。すなわち、当該主張は、処分庁が、本件処分に当たり、本件建築計画について安全条例第6条 2項の規定を満たすかについて具体的に検討しなかった理由を述べるに過ぎず、処分庁の過失の有無を評価する一事情となることがあるとしても、 本件建築計画が法第19条第4項、安全条例第6条第2項の各規定に適合していることの根拠にはなり得ず、その主張自体失当というべきである。
 もっとも、本件においては建築確認申請書添付図面のうち、案内図には本件がけの存在が表示されており、処分庁からの照会に対する 文京区からの平成23年10月18日付の回答においても、がけの存在が指摘されているという事情があることが認められるので、そのような事情の 下において、処分庁が本件処分をなすにあたって、申請書の記載のみによってこれを行い、その他の調査ないし照会を行わなかったことが 誠実な業務の執行をおこなったものとは評価し得ないところである。
(4)また、参加人は、本件建築計画が、実際には法第19条第4項、安全条例第6条第2項ないし第4項及び同第8条の2の要請を満たしている旨の 意見を述べる(丙第1号証)。
 しかし、仮に参加人の述べるとおりであったとしても(当審査会はその事情の有無について判断するものではない。)、当該事情は本件 建築確認申請書に記載され、審査されなければならないものであって、そのような記載がなくその事情について審査されないままなされた本件 処分の前記瑕疵を治癒するものではない。
2 さらに、本件建築計画における建築物(以下「本件建築物」という。)が大きく2つの建屋によって構成されることから、これが「ーの建築物」 といえるかについて、検討する。
 本件建築物は、10戸の長屋と8戸の長屋が空中部分で一カ所、壁のようなものによって結ばれているものとして計画されている。それゆえ 2つの建築物蔀分が当該壁のようなものによって結ばれているという意味では物理的一体性が全く否定されるものではない。しかし、建築物が 一であるか二以上であるかはどのような形態であれ建築物の一部がつながっていればそれをもって一の建築物と評価すべきものではなく、全体に 構造上、外観上一の建築物であるかについて検討されるペきであり、その際、建築物の機能上の要素等をも考慮して社会通念に照らし評価すべき ものである。
 この点本件建築物は、2つの建築物部分が前記のとおり一カ所で壁のようなものによって結ばれているのみであり、構造上の一体性があるとは 認めがたく、外観上もこの建築物が壁のようなものによって一カ所つながっていると評価されるべきものである。また2つの建築物部分はいずれも 長屋という同一用途に供されるものではあるが、それぞれが独立しているものと認められ、機能上の一体性も認められない。すなわち電気・給排水 設備が一系統にまとめられているなどの事情はあるものの2つの建築物部分を−の建築物と認めることはできず、その構造、機能、外観こついて 社会通念に照らして評価すれば、建築物としての一体性を有さず、本件建築物は、「一の建築物」とはいえず、ニの建築物であるというべきである。
 そうすると、本件建築計画は二の建築物を建築する計画であって、かつ、用途上不可分の関係があるとは認められないから、それぞれの建築物の 敷地が法第43条の規定に従い接道義務をみたさなければならないことになるが、これに抵触しているということになるなど種々の建築基準関係 規定に違反する状態が発生することとなる。  以上から、本件処分に違法があることは明らかであり、審査請求人らのその余の主張について検討するまでもなく、本件処分は取り消されなけれ ばならない。
4 よって、行政不服審査法第3項の規定に基づき、本件処分を取り消すこととし、主文のとおり裁決する。

平成24年5月22日
文京区建築審査会

委員  十 亀 彬

委員 黒田 清行

委員 野本 孝三

委員 内山 忠明

委員  河 村 茂

教 示
 参加人ほ、この裁決があったことを知った日の翌日から起算して30日以内に、国土交通大臣に対して再審査請求をすることができる。
 参加人は、本件裁決があったことを知った日から6か月以内に、東京都文京区を被告として本件裁決の取消訴訟を提起することができる。