「鹿鳴館」のあらすじ

鹿鳴館時代である。条約改正のために欧化主義を進める政府中枢に位置する影山悠敏伯爵の夫人朝子は、夫に対して心を
開くことなく、公の場所にも姿を現さない。彼女にはかつて新橋の芸者時代、深くいいかわして子どもまでもうけた反政府運動
の大立者の理想主義者である清原永之輔という男がいた。いまも意識の底に想いを封じ込めている。清原に引き取られた子
どもは、愛の欠落、空無感に悩む久雄という青年に成長していた。

 時は明治19(1886)年11月3日、天長節の午前より夜半まで。所は影山伯爵邸内の茶室及び鹿鳴館大舞踏場。
 朝子は、親しい仲の大徳寺侯爵夫人季子の娘顕子が清原久雄と恋しあうようになったこと、さらに久雄が今夜の鹿鳴館の
舞踏会で影山伯の暗殺を企てていることを知る。二人の招いた久雄に朝子が会うと、久雄の狙いが父清原であることが判明
する。おどろいた朝子は、腹心の女中草乃に言い含め、清原と会い、舞踏会への壮士乱入計画の中止を約束させる。そして
影山に代わって、自分が今日の夜会の主催者になると言明する。このあと朝子は、影山と刺客の飛田天骨との密談を立ち聞
きしてしまう。なんと、清原を殺そうという久雄の計画は、実は影山からの命令であった。朝子は、この陰謀を打ち砕いて、父子
の生命を救おうと決意し、影山に自分が夜会に出ること、壮士の乱入はないことを伝え、久雄の身柄を預けてほしいと頼む。
黙考の末、影山はこの申し出を承諾する。しかし、朝子の立ち去ったあと、影山はいきなり草乃を抱きすくめる。

舞台は鹿鳴館に移る。夜会の準備に忙しい鹿鳴館に草乃を伴って現れた影山は、部下たちの前で朝子の秘密を草乃に暴露
させる。そして飛田に贋の壮士らを仕立て、舞踏会の最中に自刃をふるって乱入させるよう命じ、また草乃を使って清原をおび
き出す手筈を整え、さらに久雄にピストルを与える。その夜、着飾った内外貴顕の紳士淑女が次々と来場し、舞踏会がはじまる
が、そこに贋壮士らが乱入する。清原が自分と母を裏切ったと、興奮した久雄は、おびき出された清原の馬車へと向かう。
銃声が鳴るが、ほどなくして登場したのは久雄ではなく清原であった。彼は乱入事件の真相を明らかにし、さらに「久雄は私に
殺されたかったんだ。それがあいつの復讐だったんだ」といい、朝子に別れを告げる。朝子は影山を責め、「今日限りおいとま
をいただきます」と宣言する。また遠くから銃声が聞こえる。朝子がとがめると、影山は「打ち上げそこねたお祝いの花火だ」
と言い捨てる。一同舞踏のうちに幕。(公演プログラムの抜粋)