<第1幕>
太陽産業の新社屋完成祝賀会が盛大に行われている大ホール。
おさんは太陽産業の女社長。おさんは各テーブルで挨拶をしている。出席者は、彼女の手腕を誉
める一方で、仕事への情熱の代償として女としての悦びには無縁と陰口を言う。そして、おさんの夫
である野村治平が行方不明の殺人容疑者であること、彼が恋人を作って借金を作り失踪した後をお
さんが引き継いで会社を再建したことが語られる。おさんが休憩している時、何気なくつけたラジ
オから、おさんの夫・治平が死体で発見されたニュースが流れる。「なぜ今日死ななければならない
の?私だけを愛したと言って!」呆然とするおさん。このニュースをきっかけにおさんの記憶は10年
前にさかのぼる。
− 時は10年前に移動する −
治平とおさんは夫婦喧嘩の真っ最中。おさんは写真と書類を証拠として突きつけて夫の恋人である
小春との関係を問い詰める。治平は家を飛び出し、しばらくしておさんも出て行く。
治平は小春の働いているバーまで彼女を迎えに行く。小春は病気の母と借金を抱えた身の上。ホステス
仲間は他の恋人を探すように勧める。そこに治平がやってくる。ふたりきりになりたいという治平に小
春は従いふたりは店を出て行く。小春のアパートで愛の行為の後、突然小春は「会社の再建と家族の生
活を守ることこそあなたの義務です」と治平に別れ話を切り出す。治平は「自分は会社再建への気力も能力も無く、
離婚をして小春と一緒になるつもりだ」と告げるが、決心を変えない小春の態度に、「金と地位を失
った自分に愛想をつかしたのだろ!」と逆に小春に詰め寄る。小春は「私には別れるしか尽くす手立てがない
のです。それこそが愛の証拠です。」と告げると、治平は小春を抱きしめる。
治平は自宅の書斎にいる。パソコンを操作していると、偶然にもおさんが小春に宛てた手紙を発見
してしまう。おさんはその手紙で「治平を愛するがゆえにふたりの前から私は去ります」と小春に告げ
ていた。その手紙を読みながら治平は「俺たちは夫婦だ、ひとりで立ち去るな!」と叫ぶ。次に治平は机の引出しを捜し始める。そして一通の手紙を見つける。それは小春がおさんに宛てた
返事の手紙である。小春は「愛するかゆえに私は去ります」と告げたおさんの気持ちに真実の愛を悟り、「自分の方こそ
ふたりの鮮を切ってはならない」とおさんに別れを伝える。しかし治平は「小春と自分はいつまでも一
緒!」と叫ぶ。
治平は、ふたりの女性を不幸にしたことを悔やみ、3人が一緒になれる世界を夢見て自分の死を決
意する。
<第2幕>
治平の同窓生たちの飲み会では治平のうわさでもちきりになる。治平と小春とおさんは、離れ離れに座っている。彼らの前には、ピストル、ナイフ、赤ワインが注がれたグラスがある。
3人の独自が断片的に聞こえてくる。おさんと治平が自殺を試みようとした時、ふたりは小春がナイフでのどを突き刺そ
うとしているのに気が付き駆け寄る。しかし操み合いとなり、気がついた時には小春が血にまみれて動かなくなっていた。
治平は「自分が殺したのだ」と言う。おさんに生きるように言い残して立ち去る。独り残ったおさんは生きる決意を固める。
− 時は現在に戻る −
パーティーは最高潮を迎えている。10年間の記憶を回想したおさんは、電話で小春の殺害を告白し、赤ワインを手にする…
(新国立劇場公演プログラムより)。