第6回《お結びネット》:講演会

 
 日 時   2009年5月29日(金)、18:30〜20:30
 会 場   区民センター、2A会議室
 内 容    「文京区の高齢者福祉について(文京区で老後を迎えるために)」
 講 師   畠中秀行氏 (介護福祉士)
  《講演要旨》 

1.講師自己紹介
以前、昭島市の社会福祉法人 同胞互助会の「愛全園」で働いていたが、老人養護施設の創設を計画し、人材を求めていた文京区の強い要請に応じて、 当時の副施設長であった柏木さんが移籍受託を決意した際に、同道を依頼され文京区に移動することとなった。以来21年間ほど 「くすのきの郷」に介護福祉士として勤務している。

2.特別養護老人ホーム設置の流れ
社会福祉は戦後の新憲法下でスタートしたもので、戦前は慈善団体・宗教団体等による救貧事業であった。S26年に 「社会福祉事業法」が成立した。同胞互助会は、S23年に財団法人として設置された。当時は、「養護施設」であり、戦争被害者や身障者のお世話をしていた。 当初の設備は、大変貧弱で、例えば風呂桶にはドラム缶が用いられたりしていた。S27年に社会福祉法人となり、「養護老人ホーム」偕生園がスタートした。 当初の定員は、50人であったが、その後人数が増え110人位の施設になり、さらに(S39年)重度の人達が入る特別養護施設「愛全園」になった。これが東京都では最も旧い 特養である。この当時、この種の施設は暗い、陰湿というイメージで語られることが多く、東京都23区にも老人ホームは殆どなかった。文京区に始めてできた特養老人ホームは、 「みどりの郷」でS 63 年であった。現在、文京区内には、「くすのきの郷」、「千駄木の郷」、「大塚みどりの郷」、「ゆしまの郷」、「白山の郷」の5箇所の特養施設がある。 H19年度の利用者は490名であるが、入居待機者が740名いた。H20でも同程度だと思われる。なお、昭島の愛全園は、都内全区からの入居希望者を受け入れていたが、文京区からの 入居者は、個性的で福祉に関する意識レベルが特に高かった。

3.措置制度時代 当初の区立の施設は、行政府が職権で必要性を判断し、サービスの種類や提供機関を決定する仕組みとなっている 「措置制度」下にあったため、入居者の希望は通らず、空いたところに しか入れなかった。当初、区立でスタートしたが、その後、高齢者福祉関連の施設増設の動きがあり、ゴールドプランという形で東京都、文京区、各自治体が検討して、サービス を利用できるところを増やそうとした。丁度バブルのころと一致したこともあり、国、自治体とも金銭的な体力があった。その後の新ゴールドプランでは、すでに介護保険制度を 意識してサービスを増やそうとした。H5年ころから、わが国でもドイツ等の制度を参考にした介護保険制度を導入してはどうかという話が出て来た。その際、ドイツ型の保険方式 と税負担は大きいが老後の安心感が高い北欧型の税方式との比較も議論された。また、現在の消費税の前の福祉目的税化した「売上税」導入の検討も行われたが、これには国民の 納得が得られなかった。
ところで、措置制度の時代には、高齢者福祉課のケースワーカーが、入所希望者を訪問して調査した後、入居者を特養施設に推薦する手順になっていた。なお、伝染性の病気を持つ人及び医療行為必要者は、対象外であった。特養施設では、多くのマンパワーが必要であるが、当初は、入居者100人に対して国の基準で22人、都の加算12名の職員配置があり、さらに 在宅サービスセンター及びショートステイ対応要員として12名が配置された。金銭的にも 入居者一人当たり月間40万円、くすのきの場合年間の合計では、5億円が国.都、区から入った。当初は、職員の給与も区の職員並みであったが、平均年齢が若かったこともあって 予算は潤沢で、入居者全員で一泊旅行に出かけるとか正月行事に金をかけるなど、色々なことができて、民説民営の愛全園に比べて文京区は恵まれていると感じた。

4.介護保険導入後の施設の現状
その後介護保険がスタートしたが、これは、措置制度と異なり、 利用者が契約によってサービスを選択できるので、利用者本位に近いといえる。もう一つ、地域により身近なサービスを提供できるというメリットもある。しかし、この制度に 関しては、始まる前から種々の問題点が指摘されていた。要介護度によって使えるサービスが異なるが、当初は要介護度判定の基準が明確ではなかった。以前は、自立,半自立 及び全介助の3段階であったが、現在は種々のツールを使って、細分化したアセスメントを行い、ケアプランを作成している。
一方、介護保険制度下では、措置制度と異なりサービスの提供は利用者との契約になり、特養施設の収入は利用者の介護度に応じた収入となるので、事業費はがくんと減少した。 くすのきの場合予算が年間では1.5億円減少したが、急に職員の給与カットも出来ないので、退社の常勤職員を補充せず、パート化する等で人件費の節減を図った(介護保険法の 常勤換算法で3:1以上の職員が居ればよい)。また、常勤職員が分散し リスクが大きくなることを避けるため食事時間や入浴時間の変更も行われた。(食事の時間は、誤飲性肺炎の危険もあるので、リスクが高く、職員の配置を減らすことは困難である。)
措置時代は、介護の目標が「最低限度の生活レベル確保」であったが、実際には徐々に質(クオリティー・オブ・ライフ)の向上が求められるようになってきていた。ところが 介護保険制度移行後は、利用者が契約によってサービスを選べるというのが建前であるにもかかわらず、お金や人の制約から、介護の目標が「最低限の生活レベルの確保」に逆戻り しているような印象を受ける。
すなわち、介護保険導入後も文京区はしばらく補助金を出してくれたが、老朽化で必要となった施設の改善は、苦しくなるとともに、介護の人材確保も困難になってきた。 介護現場は、実際にはやりがいのある職場であるにもかかわらず、イメージ的には3K(きつい、くらい、きたない)と言われており、多く人(特に女性は殆どの人)が腰を痛める。 また、介護に従事する職員の処遇、特にその給与のレベルは、東京の場合各業種平均の3分の2にとどまるといわれる。このため介護福祉士登録者は60万人いるが、実働は25万人である。 介護士の養成学校の卒業生の6割は、介護施設に行かない。若者が少なく、いったん離職した者の再就職が少ない。
 くすのきの郷は、当初から認知症の利用者受け入れを期待されていたという事情があり、柏木施設長をはじめ職員も、認知症者の介護に力を注いできた。認知症者の場合、利用者一人一人 がそれぞれなんらかのキーワードをもっており、それを見つけないと介護は困難である。ケアプラン会議などでの家族との対話等からその利用者の個人的ヒストリーまで把握して利用者に 寄り添った介護をしなければならない。過去の体験から夜中になると急に人が変わり、防衛心が強くなる人もいる。こういう人には、適切なケアが必要であるが、こうした介護は施設の 収入にはつながらない。しかし、境界線上の人の場合が特に問題なのである。

5.今後の動向その他について
 ・ 今の状況は、当初の心配が現実となっており、将来展望が見えて来ない。
 ・ 介護保険制度には、3年毎の見直しが盛り込まれているが、判定基準の改訂で要介護度の要件がきつくなる傾向が心配である。特に、「要介護度1」の人が「要支援2」に格下げに    なった場合には、特養が使えなくなる。将来、特養は要介護度4〜5の人を中心とし、在宅サービスを充実させる方向にあるのではないか。
 ・ 文京区のサービス指針については、   「文の京」ハートフルプラン高齢者・介護保険事業計画に詳しい。
 ・ 介護保険開始でよくなった点は、在宅サービスについて、社会福祉法人以外の民間への委託が可能となり、裾野が広がっていることである。また、医者、民生委員等で構成された   「地域福祉協議会」も始まっている。
 ・ 今後、特養に医療法人の参入を認めようという話もある。何故かといえば、入所後医療介護が必要となる人もおり、また、食事時に食物を喉に詰まらせた場合、窒息を防ぐために    機器による吸引が必要となるが、介護士には機器の操作が許可されていないので、看護婦の配置が必要である。現在は、逆さまにしたり、指を突っ込んだりして対応している。
   ・ また、認知症は、脳卒中型はある程度原因がわかるが、アルツハイマー型原因不明で、現在のところ医療による治癒は困難とされている。
 ・ 入居者には、医療以外のアプローチも大切である。特に認知症者、その人の生い立ちによってそれぞれ心の中に引っかかりがあり、これが心のテンションになっている。それを理解し、    手を取り合うケアも重要である。
 ・「介護保険法」ができたが、 「老人福祉法」も生きている。「介護」の範囲を固定的に考えるのではなく、「福祉」を増進する という観点から介護の範囲を広げていくことも必要ではないのか。
 ・ たとえば、現在の介護保険制度では、提供できるサービスの種類が定型化しており、ショートステイはあるがミドルステイというサービス形態は認められていない。    しかし、入居者が入院した場合に、この空きをミドルステイ等に利用できると良い。
 ・ 柏木前施設長は、「入居老人のためならば-----」という強い信念をもっていた。不幸にして介護給付の不正請求をとがめられて処分された(夜間の介護に必要な人数は実質的には    そろっていたが、その一部が「職員」ではなかったという理由で処分された。この事件には連座制が適用され、文京区内の特養はすべて民設民営となった。)が、介護保険財政の    維持と老人福祉の増進との折り合いの付け方には残された問題が多いように思う。

《講演会質疑》

Q:有料施設数はどの位か。
   A:ネット上の「とうきょう福祉ナビゲーション」に詳細な情報が出ている。(文京区の場合
Q:外国人介護士の導入は可能か。
 A:外国人導入の場合には、文化も入って来るが、十分対応可能と考えられる。
Q:特養の入居希望待機者が多いがどのようにしているか。
 A:地方のNPO施設に入ったり、在宅サービスを受けたりしている。当面(5年間)、区での施設の増設は期待できない。なお、「くすのきの郷」の場合は、 入院者が出た場合には、この空きをショートステイに開放している。
Q:入居者の心のケアとして宗教家の関与は可能か。
 A:ボランティアとしての関与は、可能と考える。
Q:介護士の低報酬が問題になっているが、対策はあるか。区からの補助は可能か。
 A:立場上答えにくいが、現在は繰越金を活用している。保険料の値上げは困難だと思われるが、区からの補助は、可能と考えられる。

----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

《地域の現状》

1.「野村不動産による23階建てマンション計画問題」     本郷赤門周辺の景観を守る会   松本会長
本郷地区の町会が結束して野村不動産と交渉してきた。ビルを低くするため、文京区議会の採択を受け、成澤区長から野村に出された文書等も効果があった。 地域住民のアンケートでも80%が15階以下を希望していることもあり、不満は残るが、結局、19階(70m)で決着した。このため「守る会」は、4月末に解散した。 今後は、本郷通り(本郷三丁目から農学部前まで)の高さ制限の条例化を目指したい。区の建築課では、現在マスタープランを作成中とのことであるが、2年程度はかかるものと思われる。

2.湯立坂マンション問題                   稲葉さん(補足:並木さん)
本郷赤門と同じ野村不動産の16階(現在14階)マンション計画である。重文の「銅(あかがね)御殿への影響」を懸念する大谷グループと「住民の会」で 協調して野村側と折衝してきた。大谷Gは風害を懸念して差止め訴訟を起こしている。区の教育委は、これまで国の管轄下の施設には何も出来ないと言って いたが、指導的なことは出来るはずなので、調査依頼をしている。
建築確認はすでに出ているため、業者側は、来週はじめ(6月1日)にも山留め工事のための重機を入れる予定。耐震基準の改訂後書類が再提出されたはずであり、 これに伴う“住民説明会”が必要なはずであるが、いまだに開かれていない。従ってこれは“強行着工”になると考え、抗議を続けて行くとともに計画変更交渉を粘り強く要求していく。(文責:荒木)