第I幕
序景
雷鳴とどろく中稲光に照らされた盆、みすゞの弟 正祐の元に遺された3冊のノート、みすゞを求める者たちの想いに何かが応え、 彼らを導いたのだろう。
第1景 女学校卒業式
金子テル(みすゞ)は『波風あらきうき世の海に、こぎゆかむかな』と自身の人生を暗示するかのように歌う。
異次元の声が女学生達の声に共鳴する。これもテルや女学生達への導きの始まりなのかもしれない。
答辞のことばのとおり、明日船に乗って大陸へ渡るチヨ。
『雲』
大陸に渡り最期を遂げた父を想い、雲を見上げるテル。するとテルにことばが降りてくる。
幻想的に「夕焼け小焼け」が聞こえでくる中、幼馴染のトヨはテルの父への想いに気づく。
『お葬ひごつこ』 『海え』
果てしないテルのさびしさ。
『さびしいとき』
トヨは云う。「どんなに離れていても、私たちはずっと、友達です」
第2景 みすゞ誕生
みすゞは云う。「そんなことばはむなしいだけ」「墟にならないことばがほしい」
みすゞ(テル)の独白
ことだまが語りかける。「お前は魂のことはを人のことばにする」、「それは天が与えたお前のごよう」、「天はお前の ごように名前を与えるみすゞ」。
みすずはためらうがそれを受け入れる。
みすゞ誕生への″魂呼ばい(たまよぱい)"の合唱
第U幕
第1景 正祐
テル(みすず)に頼まれ作曲した「片恋」(北原白秋:詩}に、自らのテルヘの想いを重ね、歌う正祐。
『お菓子』
正祐との語らいの場所へ向かう途、幼いころから従姉弟どうしとして育った弟を想い歌うみすゞ。
姉であることを知らず想いをつのらせ歌う正祐。
その想いに気づくも応えようはなく、ただ弟として、正祐への熱い想いを歌うみすゞ。交わらない愛の二重唱。
「豊年大漁踊リ」〜『浦の神輿』
二人の沈黙に、町の人達の祭リの歌が聞こえてくる。それをきっかけに祭リの輪に加わるみすゞ。
一人取り残される正祐。みすゞと正祐の世界が離れていく。
幕間狂言1
第2景 結婚
文英堂店主松蔵は、息子正祐と、その実の姉であるみすゞの仲を憂慮し、店員松本と結婚させるつもりであることを
みすゞ・正祐の産みの母である後妻ミチに話す。
その話を聞いてしまった正祐は結婚に断固反対し、テルヘの、そして音楽の道への想いを熱く語る。
大陸に渡り最期を遂げたみすゞ・正祐の父である前夫と正祐を重ね合わせたミチは叫ぶ「お前も家をすてるの」。
第3景 フィナーレ
再びみすゞと正祐の語らいの場。
正祐は自分のみすゞへの想いを告白しようとするが、みすゞは云う。「ダメなのよ。わたしはテルじゃない」。
みすゞの云うことを理解できず呆然とする正祐。
そこにことだまが猪鹿蝶を伴って現れ云う。「お前のことばはわたしのことば」。
みすゞはことだまを求めて再び云う。「嘘にならないことばがほしい」、「闇を切り裂くことばがほしい」、
「わたしはみすゞテルではありません。天のごようをつとめるもの」。
みすゞは猪鹿蝶に導かれ消えていく。一人残り「片恋」を涙ながらに歌う正祐。
V幕
第1景 夫・松本
深夜。みすずは夢中で詩を書いている。傍らに娘ふさえが寝ている。そこへ夫松本が帰ってくる。
みすゞが書いた詩や金子みすゞ宛ての手紙を見で怒る。「わしはこんな名前知らん」、「お前はだれや」。
すると異次元の声か答える。「みすゞ」。そのオーラを振り払った松本は宗を出ていく。
『玩具のない子が』
詩作を否定されたみすゞは、底知れぬ悲しみの中で歌う。
第2景 慰め
『打ち独楽』
そこへ猪鹿蝶が現れ、みすゞを慰める。
『南京玉』
さらに、ふさえのことばで慰める猪鹿蝶。そのことばには、一点の汚れもてらいもない。そこにみすゞが求めた
「まことのことば」があった。
猪鹿蝶は云う。「ツナガッタ ツナガッタ」。
幕間狂言2 『大津高等女学校卒業生通信』を含む。
第3景 松本からの手紙
『玩具のない子が』
みすゞがひきとることになったふさえを、松本は速れに行くと云ってきた。その時の法律では、子供は父親のものである。
ミチは子どもをうばわれたテルのさびしさを想い『玩具のない子が』を歌う。その歌はみすゞの凄まじいまでのさびしさの
絶叫へとつながる。
終景 フィナーレ
『海へ』
海の向こうの庶界へのあこがれを歌うみすゞ。ことだまはその歌に、一心同体となって応える。
『このみち』
『このみちをゆこうよ』とみすゞを導くことだまと猪鹿蝶。
「あなたはだれ」と問うみすゞ。そして「お父さんなのね」と気づく。
みすゞは『わたしは雲になりたいな』と毒をあおる。(公演プログラムの「あらすじ」の抜粋)