「ファンジニー(黄眞伊」のあらすじ

 黄眞伊は幼い頃から芸術的資質に富み、詩才と芸能の才に恵まれいた。当時、隣に住んでいた青年は彼女にひそかな想いを寄せていた。長じて、黄眞伊は家柄と出身を重んじる当時の慣習と制度的な偏見の壁を実感し、自分の運命に不吉な予感を抱く。この時、黄眞伊への片思いの未に、死んでしまった青年の棺が黄眞伊の家の前で動かなくなってしまう。黄泉伊は母親が止めるのも開かずに「霊魂に捧げる歌」で棺を送り出す。黄眞伊はこの運命の棺にみずからの進むべき道を知り、詩文と歌舞の世界で自由に生きることを決意して芸妓になる。 「名月」という名の芸妓になった黄眞伊は、持ち前の美貌と歌と踊り、そして優れた才気と品格を武器に両班(ヤンバン‥朝鮮時代の特権階級、士大夫)や官吏など多くの名士を恋の虜にする。受領である碧浸水に会ったその日、黄眞伊は遠目に当代の名唱・李士錘を見かけ、彼の声のよさに強く惹かれる。しかし、これを一人胸にしまいこみ、碧洪水と酒肴を楽しみながら詩文遊びに打ち興じる.ついにプライドの高い碧浸水の精神と肉体をわが物とする。  黄眞伊は群を抜いた才色により、風流を好む多くの名士たちと交わり、時には彼らと恋愛劇を繰り広げる。しかし、たとえ特権階級のヤンバンらの人気を一人占めにしても慣習と制度の壁は高く、それは彼女をいたずらに寂しくさせ、彼女のプライドを傷つけ、よけいに苦しめるばかりだった。彼女は傷ついた心を癒すために学者や高僧を訪ねる。しかし、三ケ月にわたる修行で得られたものは暫時の慰めだけで、彼女の熱い血と魂の希求は満たされないまま戻ってくる。  黄眞伊はいつか満月台から見た名唱李士錘を訪ね、親しく交わり、三年間の期限付きの同居生活に入る。歳月が流れ約束した期限の日、李士錘は同居を続けようと訴える。黄眞伊は「死に別れ」よりも切ない「生き別れ」のほうがいいと李士錘をむりやり送り出すが、黄眞伊自身も気落ちする。劇的な別れの後、金剛山を流浪しながら昔を回想するが、暴風の中に過去の人々−母、碧浸水などが次々と現れ、彼らの歌う神秘的な合唱の中で、黄眞伊の体と魂は幻のように消えていく。(新国立劇場「公演予告」の抜粋)