《死の都》の筋書きは、ジョルジュ・ロダンバックの小説『死都ブリュージュ』から自由に翻案されている。19世紀末のベルギーのブルッヘが舞台である。

主役のパウルは、若い中産階級の男で、若い妻マリーに先立たれたばかりである。

第1幕:幕が開けたとき、パウルは妻の死という悲しい現実を甘受することができずにいる。妻を偲んで自宅に「なごりの部屋」と呼ばれる一室を構えた
パウルは、そこにマリーの形見である肖像画や写真、一束の遺髪といったものをしまっている。パウルの友人フランクがパウルの住まいに立ち寄り、生き
続けることによってマリーを偲ぶがよいと促すが、パウルは喚き声を上げてマリーは「まだ生きている」と言い張る。パウルはフランクに、ブリュージュ
の街路でマリーに似た女性に出逢ったので、彼女を自宅に招いたのだと伝える(だが本心では、その女性こそマリーだとパウルは思い込んでいる)。

間もなく、若くて美しい踊り子のマリエッタが、パウルとのデートのために現れる。二人が会話するうち、パウルの奇妙な振る舞いにマリエッタはうんざり
しながらも、自分に興味を持ってもらおうとして、魅惑的に歌ったり踊ったりするが、そのうち飽きてしまって立ち去る。パウルはしばらく極度に不安な心
理状態に駆り立てられる。

亡き妻への忠誠心とマリエッタへの興味に引き裂かれ、椅子に倒れ込むと幻覚が見えるようになる。マリーの肖像画から彼女の亡霊が歩み出て来て、自分の
ことを忘れないでくれと催促するが、その後マリーの幻影は姿を変えて、パウルに自分自身を見失わずに、自分の生き方を続けるようにと説く。

ポールの消え去らない幻想の中で第2幕が起こる。一連の幻想の中で、マリエッタに対する執着が昂じて、パウルが友人たちから孤立してしまった後、マリ
エッタはパウルの抵抗を何ともせずに、舞台袖でパウルと激しい抱擁を交わすに至ると、そこで幕切れとなる。やはりすべての出来事は、パウルの空想の中
で起こっているだけなのだが…。

第3幕は、相も変わらずパウルの幻の中で始まる。自宅に戻ってマリエッタと暮らし始めてみるが、彼女と言い争ってばかりいる。マリエッタはパウルの奇癖
や、先妻への変わらぬ妄念に辟易し、マリーの遺髪を引っ張り出してパウルのことをなじり始める。激嵩したパウルは、遺髪の束を掴み取ると、マリエッタの
首を絞める。マリエッタの亡骸にすがり付きながら「これで彼女もマリーそっくりになった」と叫ぶ。そこで夢から覚めて我に返る。マリエッタの姿がどこに
も見当たらないことにぎょっとしていると、正気に戻ってから程なくして、家政婦が「お客様がお忘れ物の傘を取りに戻られました」と告げる。マリエッタが
立ち去ってから、大して時間は経っていなかったのである。悪夢のような幻がまだ覚めやらない中、パウルはブリュージュを去り、死者は平安のうちに安らが
せておいて、自分は生き続けようと決意する。感動的な結びの中、友人フランクを横に、マリーの形見のある我が家からゆっくりと離れて、新しい暮らしに誓
いを立てるパウルであった。

なお、ゲッツ・フリードリヒ演出のビデオでは、パウル役を演じたジェームス・キングが、「生きる者は現世で死者と出会うことは二度とできない」と悟った後、
「マリエッタの歌」を口ずさむが、そこでブリュージュを捨てようと決心するのではなく、ピストル自殺を図ろうとして終わりとなるため、粗筋の結末とは違っ
た顛末となっている。

また、ビデオゲーム「サイレントヒル2」の筋書きは、部分的にこのオペラに影響されているらしい。(Wikipediaより)